はしるひと。

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 *** 「今度はこっちに走ってきたんだよ、その子!」  私は文芸部の部室で、同じ一年生で仲良しの桜にその話をしていた。 「なかなか可愛い顔した男の子……小四くらいだと思うんだけど。その子が廊下でクラウチングスタートして、一気にこっちに走り出して来たわけ!私がぶつかる!って思ったら、私の体をすり抜けて廊下の奥に消えちゃったの。あれ絶対にオバケだよ!」 「マジか」  身振り手振りで興奮しながら喋る私に、桜は眼をぱちくりさせる。 「廊下には他にも人いたけど、その男の子に気づいてたのは累奈だけだったってこと?」 「そうそうそう!私霊感なんかないと思ってたけど、実は素質あったっぽい!?だったら嬉しいな、毎日オカルトな動画サイト見まくってたけど、どうせなら自分で体験したいなって思ってたし。部誌の材料にもなるしー!」 「おおう、ポジティブですこと」  まだ部活動の正式な開始時間ではないだけあって、部室の中にいたのは累奈と桜だけだった。オバケを見た、とびびるような累奈ではない。むしろ、怖い話は大好きだったし、ホラー小説を書きたくて文芸部に入った手前、自分でホラーを味わえるのは非常に貴重な体験だったと言えよう。  そして、それは桜もさほど変わらないのだと知っている。  先日放課後にこっそり行ったこっくりさんも、この間の百物語の集まりにも参加していた。みんなで一緒に七不思議を確認しに行こうの会、という名の夜にこっそり学校に忍び込んで遊ぶ会にも一緒に参加している。退屈な学校生活で、こういう非現実な刺激を求めているのはお互い様と言って良かった。 「でも、小学生の男の子ってのがわかんなくない?」  桜は首を傾げる。 「この学校で死んだ子なら、中学生じゃなきゃ変でしょ。体操服のデザイン見るに、うちらの母校の小学校の体操服っぽいかんじだし。何でうちの学校に化けて出るかね」 「それな」 「でもって、この間七不思議ツアーやったけど。体育の時間中に死んだ男の子の霊とか、そんなかんじの話って特になかった、よね?」 「あーうん、なかったなかった」
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