大江戸サイバー捜査網

1/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
●悪代官の屋敷 「出あえ!出あえ!」 刀が切り結び、手裏剣が乱舞する。 櫓が屋根瓦ごと一刀両断され侍の屍が累々。硝煙と火花が散っている。 「東山三十六計、リゲルが勝ちである!」 悪代官はレーザーブレードを鞘に納めることで情けをかけた。曲者は女だ。黒装束だがどう見ても忍びの者である。女は肩で大きく息をして、それから気を取り直して立ち上った… 「いいえ」とカサンドラは首を振った。そして目を伏せた。 その目には深い哀しみの色があった。「わたくしが負けた理由はひとつです。それは、あなたが、勝利に値しなかったということですわ。このままではあなたは必ず敗北します。なぜなら、あなたのご母堂のご助力が得られないから……」 それを聞いてオルトクラ代官山は茶を噴いた。「ぶわっははっはあー! 何を言うかこの娘めが!?」 代官はむせたのか激しく咳き込んだ。 だがやがて顔を上げてカサンドラを見据えた。そこにはもう笑ってもいなかったし余裕もなかった。真剣な面持ちで何かをじっと考えている様子であった。 しばらくの沈黙の後、ようやく言葉を発したのであるが…… 「……うぬの言う通りかもしれんのう。真田十勇士が地獄で待っておるわ。それにあの女どもがそうやすやすと降伏など許してくれまい。必ずやその息の根を止めに来ることであろう」 「ならば、ご協力を……」 しかしそこでカサンドラは言葉を切った。 「…………」 彼女は何かを言いよどんでいるようだった。 その時、遠くから声がした。 それは代官の名を呼ぶ家臣たちの声。 「家康公が崩御なされたー。殿、一大事でござる」と叫んでいるようだ。おそらく急ぎ城に戻ってほしいということだろう。」 カサンドラは急用を口実に辞去した。 悪代官が破顔した。「こいつは滑稽抱腹絶倒。うぬは生き延びると申すか」 「いずれ近いうちにお話を致します。どうぞそれまでご健勝にてご精進なさりませ」 「ならば、簡単に死なれては面白うない。この光線剣を持っていけ」と言って一振りの小刀を渡した。よく見ると鍔がない。つまり刃先しか付いていないわけだ。 「柄の中に隠し収納があるゆえ、そこを見てみい」と言われたとおり探すと、柄の中に細長いものが収納されていた。これは短剣というよりもナイフと言うべきものだろう。 女忍は礼のかわりに毒を吐いた。 「そろそろ喪中はがきの季節です。郵便局はお早めに。さようなら」 そして煙幕がもうもうと立ち込めた。 「上様、あのおなご…」 追っ手を代官は制止した。「捨て置け、捨て置け。これからが見ものよ」 578ba90b-aa08-4bf3-a2ad-66c5a25404a4
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!