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終章
自分がかんざしを喉に突き立てられなかったあの日から数日。
公孝の目に彼女の姿はまだ、見えている。
あと、どれくらいなのだろうか。
彼女にはきっとわかっているのだろう。
しかし、彼女はなにも言わない。
ただ穏やかに笑って公孝の話に耳を傾けるばかりだ。
今はもう、随分透けてしまって、輪郭さえおぼろげになり始めた、その彼女の満ち足りたような優しい顔を見つめながら、公孝は願う。
あと少し。
あとほんの少しでいい。
彼女との時間がほしいと。
あと少しの間、彼女の目を見て笑いかけたいと。
もう、どれほどの時間がないとしても。
あと、少しだけ。
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