あとのまつり

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だけど、こみ上げてきたのは苦過ぎる涙だった。止まらなかった。 腹の中に渦巻いていた怒りはすでに、途方もない悲しみと(はげ)しい痛みに塗り変わっていた。 季節は夏の始まりで、これから新しい水着を買って、プールにも海にも行く予定だった。再来月には、楽しみにしていた花火大会だって控えている。 さっきまで触れられるくらいの距離にあった景色が眩しすぎて、今現在の闇の深さが際立った。 隼人とは、友達の紹介で知り合った。 地元で1番の進学校に通っていて、派手さはないが鼻筋がすうっと通った涼しげな顔立ちと、穏やかな物腰に好感を持った。 そんな隼人に告白されたのはクリスマス目前で、わたしは舞い上がった。孤独なイベントシーズンなんて耐えられる気がしなかったから。 付き合い始めてからの隼人は、初対面の印象通り温和な人物だった。 大袈裟なサプライズ演出とかは苦手で、そこが物足りない部分ではあったのだけれど、下心が透けて見えるようなわざとらしさも押しつけがましさもなく、いつだって彼は優しかった。 一方のわたしは、与えられることしか考えていなかった。 どれだけわたしのわがままに応えてくれるのか、わたしのために時間を割いてくれるのか、そのことだけが重要だった。 時に連絡を無視しては素っ気ない態度で気を引こうとしたり、嫉妬させたくて他の男の子に誘われた話を大袈裟に伝えたりした。 隼人はそんなわたしを否定せず、根気強く付き合ってくれた。だからこそ、疲れてしまったのだろう。 その時になってようやく気づいたけれど、自分で思っていた以上にわたしは、隼人のことを愛していた。ずっと、隼人の心変わりを恐れていた。 こんな気持ちは初めてで、まったく、認めたくなかった。 ついに溢れ出た自らの本音に翻弄され支離滅裂なわたしの話を、ゆきえは根気強く聞いてくれた。何度も優しくうなずきながら。
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