あとのまつり

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復縁への計画を企てる間もなく、隼人が同じ高校の同級生と付き合い始めたという風の便りが、聞きたくもないのにあちこちから届いた。 その夏中、わたしはからっぽだった。 心に穴が空くという比喩をよく聞くけれど、それは比喩なんかじゃない。 実際わたしの中心には、ぽっかりと大きな穴が確かにあった。底の見えないその空洞に何度ものまれた。 どれだけ泣いても涙は枯れない。 お腹は空いているはずのに食べられない。眠りたいのに眠れない。心と体はちぐはぐで、意思疎通がまったく上手くいっていなかった。 無理やり口に押し込む食事は美味しくも不味くもない。どうにか眠りについたとしても、目覚める朝、目の前にあるのはとてつもない虚無感だった。 そんなわたしの、唯一の救いはゆきえだった。穴は簡単には塞がらないけれど、彼女といる時だけは笑うことができた。 ゆきえとは音楽の趣味が一緒で、高校入学と同時に仲良くなった。1年生の頃から引き続き、同じクラスに振り分けられた2年生の当時、わたしたちは親友と言って良い関係を築いていた。 ゆきえは、年齢の割に大人っぽく優雅な雰囲気をまとっていて、そのくせたまに見せる不器用さはあいらしく、完璧過ぎないところがまた、完璧だった。大学生の彼氏からも同性の友達からも、気難しい生活指導の教師からさえ愛されていた。 時折泊まりに行くゆきえの実家は、ゆきえと両親の3人暮らしにも関わらず、5人家族のわたしの家の2.5倍くらいの広さがあって、洗練されたインテリアをコーディネートするのは穏やかな建築士の父親と、美容関係の会社を経営しているというゆきえによく似た美しい母親だった。 ゆきえの両親は門限には厳しい方だったが、基本的には娘に甘く、彼らの愛情の深さは少しの時間を共有しただけでもありありと伝わってきた。 ゆきえの周りにはいつも人が集まってくるから、彼女と最も仲の良いわたしは自然とその輪の中心にいて、隼人がいない寂しさも和らいだ。 そんな完璧なゆきえだったから、少しぐらい、わたしのわがままに付き合ってくれたっていいと思った。
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