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わたしとゆきえは距離を置くようになった。
そうこうしている間に3年生に上がり、別々のクラスに振り分けられたわたしたちは、廊下ですれ違ってもどちらともなしに目を逸らし、同じ高校に在籍しているにも関わらず、いよいよ疎遠になってしまった。
無事に地元の大学への推薦入試を終え、早々と受験勉強から解放されたわたしは、新しい彼氏やクラスメイトとそれなりに楽しい日々を送っていた。
ゆきえの父親が亡くなったと聞いたのは、葬儀に参列したゆきえのクラスメイトからだ。卒業式を間近に控えた肌寒い日だった。
後頭部を、鈍器で思い切り殴られたような気分だった。
記憶の中にあるゆきえの父親は、目尻にしわを寄せ、柔和な笑みを浮かべている。ゆきえの家に時々泊まりに行っていたあの頃から、可能な範囲で仕事をしてはいたが、すでに重い病を患っていたなんて、信じられなかった。
自業自得の失恋に傷ついて、ストーカーすれすれの行為にゆきえを巻き込んでいた間も、ファミレスで生産性のない時間を過ごしていた間も、彼女の父親は闘っていた。
信じたくなかった。
ゆきえが頑なに門限を守っていたのは、闘病中の父親に余計な心配をかけたくなかったからだ。花火大会の前日、ゆきえの父親は余命宣告を受けていた。
何もかも、後になって人から聞いて知ったことだ。
振り返ってみれば、知るチャンスはいくらだってあったのに。
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