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第1話
俺、山崎楓斗が彼女に初めて会ったのは、確か小学生の頃だった気がする。
二個上の兄、紅葉が彼女を家に誘って、一緒に遊んだ記憶がある。彼女の名は、吉田悠花。兄の紅葉と同い年で、いわゆる幼馴染というやつだ。
よく二人は一緒にいて、俺も当然共に行動するようになった。彼女に初めて出会った時から、俺は恋に落ちていたと思う。今なら、分かる。あれは完全なる一目惚れだった。
彼女が微笑むだけで周りが光り輝き、彼女しか目に入らなくなるのだ。ずっと彼女を見ていた記憶しかない。
「楓斗は本当に悠花のことしか目にないよな」
ある時、紅葉がからかう口調でそんなことを言った。俺は中学生の思春期だったのもあり、恥ずかしさからカッとなったのを覚えている。
「そんなんじゃねーしっ!」
「へぇ。お前、悠花のこと好きなんじゃないの?」
「別に」
「ふーん。……俺、悠花のこと好きなんだよね。楓斗、応援してくれるか?」
突然の告白に、どきりとする。薄々、紅葉の気持ちには気付いていた。だが、いざ本人の口から聞かされると心がモヤモヤする。
「……兄貴のしたいようにすれば」
そう答えるので精一杯だった。嫌だとは言えなかった。
自他ともに認めるが、俺はブラコンだ。紅葉とは年も近いからか、友達のように仲がいい兄弟で、それが自慢だった。喧嘩もほとんどしたことがない。だから、純粋に紅葉の恋を応援したい。そう思っていた。
一方で、自分も彼女のことが好きだったから、この気持ちをどうすれば良いか、分からなかった。
でも、このまま自分の気持ちに嘘をつくのも嫌で、俺は紅葉には内緒でその日の夜に彼女を近くの公園へ呼び出した。
「どうしたの、急に」
彼女は、部屋着の上にパーカーというラフな格好をしていた。普段、お洒落な服装や制服姿しか見たことがなかった分、なんだか新鮮だった。
「楓斗?」
思わず、見惚れていると至近距離で不思議そうにこちらを見る彼女と目が合う。
「な、なんだよっ」
慌てて後ずさって、少し距離をとる。彼女は可笑しそうに目を細めて、こちらに視線を向けた。
「何って、それはこっちの台詞。急に公園に来てって、何かあったの?」
「いや……」
「紅葉と喧嘩でもした?」
「違うっ」
首を横に振り、即答する。
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