26人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話
「先生が傍にいないことを実感したせいか、すっかり覇気がなくなって。仕事はちゃんと行ってるみたいなんだけど……」
「そっか。最近は会ってるの?」
「ううん。お互い仕事が忙しくて、なかなか予定が合わなくて」
「うーん」
逸樹は考え込むように顎に手をやり、上を向く。彼にとっては関係のないことなのに、いつもこうして一緒に問題解決のために考えてくれる。わたしは、その優しさに救われてばかり。本当に頭が上がらない。
「あ、いいこと思いついた」
「?」
逸樹が唐突に手を叩いて、口を開く。
「楓斗も誘って、四人で遠出するとかどう?」
「え、いいかもっ。気分転換にもなるし」
「楓斗なら察しがいいし、アホみたいに明るいやつだから」
「ふふっ。逸樹くんが唯一塩対応になる貴重な人材だよね」
楓斗というのは、逸樹が心を許しているなとよく分かる、中学時代からの親友だ。本名は、山崎楓斗。何度か会ったことがあるが、誰にでもフレンドリーで、気配り上手な印象の人。茜音と出掛けるには悪くない人選だと思った。
「僕、そんなに塩対応?」
「楓斗くんに対してだけね! いつも仲が良いなぁって妬けちゃうぐらい」
「そうかなぁ」とぼやきながらも、どこか嬉しそうな表情をする。
自分と茜音の仲と似ている気がした。違いは、小さい頃から一緒に育ってきたか、中学から出会ってからの腐れ縁か、だけ。楓斗のどこかわたし達と似ている雰囲気は、茜音にとって安心できて良い風になるかもしれないと思った。特に未だ傷心している彼女には――――。
「そしたら、出掛けるのは今週末とかどうかな?」
「そうだな、聞いてみる」
「うん、わたしも茜音ちゃんに聞いてみるね。……ありがと、逸樹くん」
「ん?」
最後に小さく呟いた声は、周りの人の声に紛れて相手の耳には届かなかった。 わたしは首を振って、今度は少し声を大きめにする。
「逸樹くんが彼氏で良かったなぁって!」
「何、急にどうしたの」
逸樹は笑いながら、優しくわたしの頭を撫でた。その温かい手にますます彼への好きが増していく。ぽっと小さい蝋燭の灯がついたように心がじんわりと温まる。
最初のコメントを投稿しよう!