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第7話
逸樹は何も言わずにただ無言で、わたしの手を引いて花畑の小道を歩く。おかげで、だんだんと気持ちが落ち着いてきて、わたしの方から口火を切った。
「逸樹くん……、ありがと」
「ん。落ち着いた?」
「うん。……お花、綺麗だね」
「だね。桜空はやっぱり花のある場所が似合うな」
「そ、そうかな?」
突然、前を向いて歩いていた逸樹が振り向き、微笑む。その微笑みがあまりにも優しいものだったので、鼓動が小さく暴れだす。
大学生の頃と比べて、社会人になってからは一緒にいれる時間が少なくなったせいか、大学生の頃よりも逸樹にときめくことが増えた。
じっと見つめていると彼が不思議そうに首を傾げる。
「どした?」
「ううん。――逸樹くんのことが好きだなぁって思って」
「ちょっ……、それはヤバイ、反則」
逸樹は、両手で顔を隠した。耳がほんのりと赤くなっている。釣られて、わたしまで恥ずかしくなってくる。
「あ、あれ見て! ツルニチニチソウだ」
恥ずかしさを誤魔化そうと目についたのが、多年草のツルニチニチソウだった。
ツルニチニチソウは、三月から青紫色や白色の花を咲かせるので、丁度今が見頃だ。
「可愛い……」
「こんなに咲いてるのは、初めて見たな」
逸樹も驚いたようにツルニチニチソウへ視線を向けた。よく見ようとしたとき、二人同時にしゃがみ込み、つい笑ってしまった。逸樹も吹き出す。
「ぷっ、タイミングっ」
「ピッタリだったね!」
ひとしきり笑い合った後、逸樹がツルニチニチソウを愛おしそうにそっと触れながら呟いた。
「ツルニチニチソウの花言葉って、知ってる?」
「うん、知ってるよ。花がたくさん咲く姿が楽しげに見えることから、『楽しい思い出』っていう花言葉がついたんだよね?」
「そう。実はそれだけじゃないんだ」
「他にもあるの?」
「うん。僕、ツルニチニチソウを見る時いつも桜空と茜音ちゃんみたいだなって思うんだ」
花の話から急に自分の話になって、困惑する。わたし達二人が楽しそうな姿を見て、似ていると思ったのだろうか。
不思議に思いながらも口を挟まずに、黙って続きの言葉を待つ。逸樹がゆっくりとした口調で続ける。
「ツルニチニチソウには、他に『幼馴染み』『親友』『生涯の友情』っていう花言葉もあるんだよ」
「……!」
わたしはまじまじと彼を見つめてしまう。まさに自分と茜音のためにあるような花だと思った。
元々、可愛らしい姿に長い期間咲いているというのもあって、ツルニチニチソウを気に入っていた。だが、逸樹の言葉でますます好きになってしまった。
「まるで、わたしたちみたいだね」
「でしょ。この花は二人の象徴みたいに思える」
「逸樹くん、教えてくれてありがとう。わたし、この花の種を買って、庭に埋める!!」
「いいね」
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