花とキミと

第3話

『最近、色々と頑張りすぎてない？　本城』
『そ、そうですか？』
　どきりとした。その頃は、寝る間も惜しんで勉強をしていた。誰にもその事については言ってないし、ばれていないと思っていたのだ。
『受験勉強に力を入れるのは大事だけど、息抜きもたまには必要だよ』
『でも……。どうしても行きたい大学に受かりたいから』
『うん、そうだよね。だけど、最近あまり寝てないんじゃない？』
『……』
『図星か。より効率よく勉強するには、何が大事だと思う？』
『食事とか休憩とか』
『そう。あと、睡眠。睡眠をきちんと取ること。寝ることで脳がその間に情報整理をしてくれるから、より暗記力が増すんだ』
　私は、素直に驚いた。心を見透かされている気分だった。担任でもないのに、どうして寝ずに勉強していたことが分かったのだろう。幼馴染の桜空にさえ、気付かれないように振る舞っていたのに――――。
　彼は私を見て、笑った。
『これでも、教師だからね。生徒のことは、担任でなくてもちゃんと見てるものだよ。特に、自分が受け持っている授業のクラスの生徒なら尚のこと』
　それに、と彼は胸ポケットから何かを取り出す。
『本城は誰よりも頑張り屋さんだから、なんか放っておけなくて』
　彼の掌には、大小様々な大きさの梅の花が描かれた金色の板状のお守りが乗っている。
　受験生に大人気の梅守。
　今日は、ほとんどの生徒が買っているであろう代物だ。
　私は、信じられない思いで彼を見つめた。
『これ……』
『さっき、買ってきた。これ、結構ご利益あるらしいよ』
『い、いいんですか……？』
『他の子には内緒な。具合悪くなって、買いにいけなかった代わりに、ってことで』
　何故だか彼は耳を赤くして、視線をそらしながら、私に差し出した。私はそれを受け取り、手の中でお守りをぎゅっと大事に握りしめる。
　見ていてくれる人がいて、応援してくれる人がいる。そんな存在が身近にいたことにも驚いたが、何より彼の言葉や行動が嬉しかった。
　一瞬で、恋に落ちるには十分だった。もっと自分を見てほしい。自分だけを見ていてほしい。
『先生、ありがとうございます！　絶対に志望校に合格してみせます！！』
『うん、ほどほどにね。それとちゃんと睡眠をとること』
『……はい』
　私の返事を聞き、彼は嬉しそうな、どこか安心したように笑った。その笑みに、また心臓が大きく跳ねる。どくん、どくんと鼓動が早くなり、少し胸が苦しくなる。さっきとは、また違った意味で――――。