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第5話
「な、なに?」
「茜音ちゃん、恋してる?」
「えっ!?」
突然の質問に動揺する。
先生との会話を聞かれていたか。
何と言うべきか迷っていると桜空が可愛い顔を近づけてきた。その目は、確信に満ち溢れていて、キラキラとしている。
「やっぱり! もしかして、菊地先生?」
「え、あ、いや、えっと……」
「そうなんだ? そっかそっか。茜音ちゃんと先生かぁ」
一人納得顔でうなずく桜空。
やはり、幼馴染には敵わない。無駄な抵抗をするのを諦めて、私は桜空に正直に話した。移動教室での出来事、そして今回のことでより彼への気持ちが強まっている自分がいることを――――。
桜空は、一言も口を挟まずに最後まで聞いていた。いつも思うが、桜空は聞き上手すぎる。ついつい、話したくなってしまうのだ。
「そうかぁ。確かに菊地先生のそういう一面は見たことない気がする」
「だよね?」
「うん。茜音ちゃんのこと、少なくとも他の生徒よりはかなり気にかけてて、良くは思ってると思うな」
「うわー。改めて他の人に言われると恥ずかしくなってきたっ」
「なんでー! 可愛い」
桜空が小さく笑い、釣られて一緒になって笑い合う。
「茜音ちゃんの中で、もうどうしたいか決まってるんでしょ?」
核心をついてくる辺り、さすがだ。鋭い。
私は素直に首を縦に振る。あのお守りをもらった時から、ぼんやりと考えていたことだが、さっきの件ではっきりと心が決まった。
「受験合格したら、先生に告白しようと思う」
うんうんと桜空は何度もうなずいた。
「わたし、応援するっ。茜音ちゃんには幸せになってほしいから」
「ありがと、桜空」
「ふふ、早く春が来ないかなぁ。待ち遠しい!」
「まだ気が早いって」
照れた顔を見られないように下を向く。
気づけば、カーテンの隙間から入ってくる陽の光がだいぶ濃いオレンジ色に床を染めていた。次期に濃紺な色に変わっていき、夜になるだろう。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだね。帰ろっか」
桜空と二人、いつものように並んで保健室を後にする。
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