第二章 僕が彼氏です

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「ハル、悠依が代わってって」 「はい。……もしもし」  悠誠がエプロンを外して、ソファに座った。 『おー、悠誠くん! この間ぶり』 「そうだね」 『あのさ、今度じいちゃんの三回忌あるんだけど、悠誠くんも一緒に参加してくれない?』 「え」 「えっ!? ちょっと、悠依! 何を言ってるの!?」  思わぬ誘いに、悠誠もどう反応していいか分からず、固まっている。 『いや、父さんが言ってるんだよ。姉さんの彼氏には、いつ会えるんだって』 「なんで、お父さんが知ってるのよ?」 『うーん……、ごめん。多分、俺が酔った時に言ったっぽい』 「また余計なことを……」 『まぁ、いいじゃん? 彼氏を紹介する良い機会になるし。姉さん、こういう機会がないと自分から言わないでしょ』 「うっ……」  悠依の言う通りだ。この歳になって、今更親に彼氏を紹介するなど、澪依には恥ずかしくて到底できない。  だから、ある意味よかったのかもしれない。だけど、紹介する場が祖父の三回忌という大事な場面で良いのかは謎だ。 『父さんが呼べ呼べうるさいし、いいんじゃない?』  察しの良い悠依が先回りして、澪依の反論を封じる。 「でも、ハルは」 「僕も参加させていただけるなら、是非」 「えっ、ハル?」 『おっけー、決まりね。後で日程と場所送っておくから、都合つけてね。じゃあ、お客さん来たから』 「ちょっ、悠依……!」  一方的に電話が切られ、スマホの画面が見慣れたホーム画面に戻る。  澪依は呆然とそれを見つめた。悠誠が静かに背中に抱きつき、耳元で囁く。 「僕も参加するのは、不味かったですか?」 「い、いや、そういう訳では……。むしろ、ハルはいいの? 親戚とかも来るのに」 「大丈夫です。澪依さんがどんな環境で育ったのか知れますし、何よりずっと傍に居たいんです」  澪依の胸の下で交差している悠誠の腕に、ぎゅっと力が入る。 「なかなか、澪依さんが家族のことについて教えてくれないし、紹介してくれそうになかったので」 「え? ……も、もしかして、ハルが悠依に話を持ちかけたの!?」 「さぁ、どうでしょう」  悠誠がさらにきつく抱きしめてくる。今、どんな表情をしているのかは分からないが、いつもの意地の悪い声だ。  恐らく、黒だろうと澪依は確信した。悠依は、悠誠と仲がいい。ジムで一緒に汗を流しているのもあるのか、二人は気が合うようだった。  澪依がいない空間で、二人で今回のことを計画していたのだろう。付き合う前から、彼はよく悠依に恋愛相談などをしていたらしいから、可能性は高い。
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