第二章 僕が彼氏です

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「はぁ。ハルはわたしより、悠依の方が好きなの?」 「それは、決してないです。断然、澪依さんのことが好きに決まってます」  きっぱりと、彼は即答する。真っ直ぐな言葉に少し照れてしまう。  別に家族については、隠していたつもりはない。聞かれれば応えるし、聞かれないのであれば特に言う必要はないと思っていた。  それは、親に対しても同様だ。彼氏の有無など、今まで聞かれたこともなかった。悠依とは、恋愛など色々とよく話すから、弟から親へ伝わっている時もあったと思う。だからこそ、両親の心の内では彼氏の話などを聞きたかったのかもしれない。敢えて聞いてこなかっただけで、澪依から言うのを待っていたのだろう。澪依の両親は、そういうところがある。子供のを優先して、いつまでも待ってくれる人達なのだ。  だけど、どうして、こんなことになってしまったのだろう。 「わたしの知らないところで、悠依と話してるくせに」 「……それは、悠依くんに嫉妬してるのですか?」 「べ、別に! そんなんじゃ」 「弟にまで嫉妬するなんて、澪依さんは本当に僕が好きなんですね。可愛いすぎます」  悠誠は嬉しそうにはにかみ、澪依の首筋に唇を寄せる。 「ちょ、ちょっと、ハルっ」 「澪依さん。ご飯と僕、どっちにします?」  瞬時に質問の意味を理解した澪依の顔が、ぶわっと真っ赤になった。それを愛おしそうに、彼は目を細めて見つめる。 「あー、もう本当に可愛いですよね、澪依さんは」 「は、ハルっ、んっ……」  悠誠のスイッチが入ってしまった。抵抗しようにも、彼のキスはどんどんエスカレートしていく。意外と、そんなキスも嫌いではないのだ。  澪依は、だんだんと身体の力が抜けていく。 「ね……ねぇ……、ご……はん……っ」 「僕よりご飯がいいんですか?」 「そ、そんな……こと……は……、言って……な……」  息つく間もなく、彼のキスの嵐が止まらない。澪依の目がとろんとし始める。  その時、静かな空間に炊飯器の出来上がりをお知らせするメロディーが響き渡った。 「あ」 「ぷはっ……。ご飯、できたみたいだね」 「はぁ、タイミングが悪すぎますね」 「は、ハル?」 「……明日も早いですし、ご飯にしましょうか」  悠誠は澪依と離れるのを惜しむように、最後に軽いキスをおでこにした。
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