第二章 僕が彼氏です

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「ハルって、思ってたより筋肉があるのね」  週末、澪依は悠誠と二人で買い物に来ていた。喪服のサイズを測ってもらったのだ。  スマホで喪服のレンタルサイトに予約手続きをしている悠誠が顔を上げる。 「これでも鍛えてますからね」 「どうして、ジムに通うようになったの?」 「いつ何時、澪依さんを危険から守れるように強くなろうと思いまして」  悠誠は外でもさらりと、こちらが恥ずかしくなるようなことを平気で言う。  甘いことを言われるのは、いつまで経っても慣れない。つい、顔が赤くなってしまう。 「そ、それなら、空手とかやればいいのに」 「キックボクシングはやってますよ。あと昔、護身術も習ってました」  ますます、悠誠という男が分からなくなる。スポーツ全般こなせて、頭の回転も速い。文句の付け所がない。  唯一の弱点は、くすぐりが弱いところか。 「……本当、わたしの彼氏にしておくのは勿体ない」 「何か、言いました?」  注文が完了したのか、彼がスマホをポケットにしまって、澪依の手を握り直す。 「な、何でもない。それより、次は手土産だっけ? デパ地下でも見る?」 「そうですね。澪依さんのご両親は、どういうものがお好きなのですか?」 「うーん、基本甘いものなら何でも喜ぶかな。強いて言えば、バームクーヘン?」 「バームクーヘンですか。なら、美味しい専門店があるので、そこにしましょう」  流石、社長専属の秘書だ。菓子折りなどを用意する機会が多いからか、すぐに相手の口に合いそうなお店を見つける。  そういうスマートに仕事ができるところも、好きだ。  しっかりと澪依の手を繋ぎ、悠誠は目当てのお店に向かう。歩いて五分ほどで、こじんまりとしていて、竹で出来た和風デザインの店にたどり着く。 「ここ、しっとり生地なのですが、あまり重みがなく、幾つでも食べれそうなぐらい美味しいんです」 「へぇ。ハル、甘いのは苦手じゃなかった?」 「はい。苦手なのですが、ここのバームクーヘンは別格でした」 「いつ、食べたの?」 「以前、お中元を取引先の方から貰ったとき、一口だけ」  悠誠はあまり甘いものを好まない。だが、取引先と会うこともあるため、失礼がないように必ず一口は食べるようにしている。  たまに、感想を聞かれたりすることがあり、それに応えられるようにしているらしい。やはり、できる(ひと)だ。ますます、惚れ直してしまうではないか。
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