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「あんまり、無理して食べなくてもいいからね?」
「いえ、大事なうちの取引先ですから。それに、澪依さんの評判を落とすわけにはいきません」
悠誠は、どんな時でも澪依のことを考えてくれている。頼もしいし、有り難い存在だ。
「ハル、ありがとう」
「いいえ。それより、大きさはこれぐらいでいいですか?」
「うん、三人だし、それぐらいでいいんじゃないかな」
「分かりました。買ってくるので、澪依さんは少し店内を見ながら、待っててください」
悠誠が会計をするためにレジに並んでいる間、澪依はゆっくりと店内を見回した。
内装も和をモチーフにしていて、電灯が紙風船柄の丸いものを使っている。自分の店の内装デザインのヒントになりそうだ。
仕事のことを考えながらぶらりと歩いていたら、人とぶつかってしまった。
「あっ、す、すみません!」
「こちらこそすみま……、玉木?」
「あ、神村くん……」
まさか、休みの日にまで会いたくない人に遭遇してしまった。しかもよりによって、彼と出掛けている時に――――。
「玉木も買い物か?」
「え、ええ。実家に帰るから手土産用に」
「へぇ、奇遇だな。こんなところで会えるなんて」
つい先日のことなど忘れたかのように、いつもの笑みを浮かべて、竜也が澪依に歩み寄る。
思わず、一歩後ろに下がった。緊張で心臓がバクバクと早鐘を打つ。この前のことが思い起こされ、背筋に冷たい汗が流れる。
「やっぱり、俺たち運命の糸で結ばれているんじゃないか?」
「そんな訳……」
「そうだ! この後、昼飯とかどうだ? 奢ってやるよ」
「いや、用事があるから」
じりじりと近づいてくる竜也をどう交わそうか、考えていた時だった。
突然、竜也の顔色が変わった。
視線が澪依ではなく、別のところへ向けられている。振り返れば、お店のロゴが入った紙袋を手に、悠誠が竜也をじっと見ていた。
「お、お前も来ていたのか」
「はい。澪依さんの買い物に、付き添いで」
彼は、敢えて「社長」とは呼ばずに、名前で呼んだ。
ぴくりと、竜也の片眉が動く。
「へ、へぇ。お前たち、もしかして付き合ってたりするのか?」
「はい」
悠誠が間髪入れずに答えた。
改めて、人前で付き合っていると言われるのは、少し恥ずかしい。
一方で、竜也はますます眉間に皺が寄る。
「いつからだ?」
「それを知って、あなたに何の得があるのですか?」
「俺はお前が出会う前から、玉木を知っている。ずっと、玉木だけを見てきたんだ!」
「えっ……」
予想外な竜也の発言に、澪依は言葉を失う。
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