第二章 僕が彼氏です

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「あんまり、無理して食べなくてもいいからね?」 「いえ、大事なうちの取引先ですから。それに、澪依さんの評判を落とすわけにはいきません」  悠誠は、どんな時でも澪依のことを考えてくれている。頼もしいし、有り難い存在だ。 「ハル、ありがとう」 「いいえ。それより、大きさはこれぐらいでいいですか?」 「うん、三人だし、それぐらいでいいんじゃないかな」 「分かりました。買ってくるので、澪依さんは少し店内を見ながら、待っててください」  悠誠が会計をするためにレジに並んでいる間、澪依はゆっくりと店内を見回した。  内装も和をモチーフにしていて、電灯が紙風船柄の丸いものを使っている。自分の店の内装デザインのヒントになりそうだ。  仕事のことを考えながらぶらりと歩いていたら、人とぶつかってしまった。 「あっ、す、すみません!」 「こちらこそすみま……、玉木?」 「あ、神村くん……」  まさか、休みの日にまで会いたくない人に遭遇してしまった。しかもよりによって、彼と出掛けている時に――――。 「玉木も買い物か?」 「え、ええ。実家に帰るから手土産用に」 「へぇ、奇遇だな。こんなところで会えるなんて」  つい先日のことなど忘れたかのように、いつもの笑みを浮かべて、竜也が澪依に歩み寄る。  思わず、一歩後ろに下がった。緊張で心臓がバクバクと早鐘を打つ。この前のことが思い起こされ、背筋に冷たい汗が流れる。 「やっぱり、俺たち運命の糸で結ばれているんじゃないか?」 「そんな訳……」 「そうだ! この後、昼飯とかどうだ? 奢ってやるよ」 「いや、用事があるから」  じりじりと近づいてくる竜也をどう交わそうか、考えていた時だった。  突然、竜也の顔色が変わった。  視線が澪依ではなく、別のところへ向けられている。振り返れば、お店のロゴが入った紙袋を手に、悠誠が竜也をじっと見ていた。 「お、お前も来ていたのか」 「はい。の買い物に、付き添いで」  彼は、敢えて「社長」とは呼ばずに、名前で呼んだ。  ぴくりと、竜也の片眉が動く。 「へ、へぇ。お前たち、もしかして付き合ってたりするのか?」 「はい」  悠誠が間髪入れずに答えた。  改めて、人前で付き合っていると言われるのは、少し恥ずかしい。  一方で、竜也はますます眉間に皺が寄る。 「いつからだ?」 「それを知って、あなたに何の得があるのですか?」 「俺はお前が出会う前から、玉木を知っている。ずっと、玉木だけを見てきたんだ!」 「えっ……」  予想外な竜也の発言に、澪依は言葉を失う。
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