第二章 僕が彼氏です

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 それは、どういう意味なのか。  この前のキスといい、いくら鈍い澪依でも、そろそろ達也の言動の意味に気づき始める。 「……一旦、店を出ましょう。ここで話すことでもないですから」  悠誠が固まる澪依の肩をさり気なく抱き、竜也を外へ促す。気がつけば、店内にいる人々が何事かと、こちらを遠巻きにちらちらと見ていた。  竜也は舌打ちをしながらも、彼に同意だったのか、大人しく店の外へ出る。  そのまま、三人は近くの公園に向かった。その間、ずっと無言で居心地が悪い。何か話さなければと話題を考えていたら、最初に口を開いたのは、竜也だった。 「俺は諦めないからな。地位も金もある。玉木を幸せにできるのは、俺だ」 「いや、これでも私も一応社長だけど。自分の幸せぐらい、自分で掴むから」  思わず、澪依が竜也の言葉にツッコミを入れてしまう。ツッコミが入ると思っていなかったのか、少しだけ竜也の勢いが弱まる。 「ち、知名度とかがやっぱり、俺と玉木のところだと全然違うだろ?」 「だから? 別にそういうのは、求めてない。ただ美味しいものを一人でも多くの人に食べてもらって、幸せな気分になってもらえたらなって思って始めたことだし」 「だけど」 「ねぇ、神村くん。何で、わたしなの? もっと性格が素直で可愛い人とか、たくさん周りにいるでしょう」  どうして、竜也がそこまで澪依に執着するのかが、分からなかった。初めは、事業のためだと思っていたが、それもちょっと違うようだ。  OMU社ほどの知名度がある会社なら、他にもっと条件のいい会社など、沢山ある。別に、澪依の会社に固執する必要はない。どうしてなのか、不思議だった。  竜也はしばらく黙り込み、やがて意を決したように真っ直ぐに澪依を見つめる。 「……お前だけだった。会社とか関係なく、俺自身を見てくれたのは。他の女は、名誉や金目当てにうじゃうじゃと寄ってくる。だけど、玉木だけは、俺と対等に接してくれた」  少しだけ、竜也の声が震えていた。  確かに、彼は学生の頃からモテていた。「容姿が良くてモテる」、というよりは、「大手OMU社の息子」、という肩書きでちやほやされていた記憶がある。  当時からそういうのに興味がなかった澪依は、普通に一人のクラスメイトとして接していた。それが竜也にとっては、嬉しかったらしい。
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