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「お前だけが俺に媚びなかった。だから、逆に落としてみたいと思ったんだ」
「何も仕事まで、落とそうとしなくても」
「そうでもしないと、お前は俺を見向きもしないと思ったからだよ。ちゃんと仕事は仕事で、本気で玉木の所と取引したいという思いもあるぞ」
真剣な眼差しで澪依を見つめるその瞳に、嘘は感じられなかった。
竜也の言っていることは、一理ある。仕事でなかったら、澪依は竜也に連絡されても会おうとすらしなかっただろう。
ましてや悠誠と付き合っているのだから、仕事以外で男性と二人きりになるのは、避ける。余計な心配を彼にかけたくない。
ちらりと悠誠の方を見れば、目が合い、自然と口元が緩む。彼への愛おしさが募る。
やはり、澪依は悠誠以外の人と付き合うことは想像ができない。こんなにも誰かのことを好きになれるとは、思いもよらなかった。
「神村くん、ごめんなさい。仕事の取引は、もう一度考えてみる。だけど、プライベートではお断りさせていただきます」
目を逸らさずに竜也を見て、深く頭を下げる。 しばらくの沈黙が続き、やがて竜也が大きく溜息をついた。
「そうか……。そんなに、コイツのことが好きなんだな」
「うん」
「気をつけろよ」
「え?」
「何かあったら、いつでも俺の所に泣きに来ていいからな」
「そんな日は、断じて訪れませんから」
すかさず、悠誠が口を挟む。
「ははっ、相変わらずの辛辣さだな。まぁ、これからは仕事の方でまた何度でも顔を出すから、宜しく」
片手を上げて、竜也は澪依たちに背を向け、静かに立ち去った。
竜也の姿が見えなくなり、悠誠は澪依を見つめた。
「澪依さん」
「ん?」
「ちゃんと断ってくれて、ありがとうございます。嬉しいです」
「うん、当然だよ。なんか、心配かけてごめんね。ハル以外の人と付き合うとか、考えられないから」
「僕もです」
悠誠は嬉しそうに目を細め、澪依の腕を自分の方へと引き寄せる。澪依は引っ張られるまま、彼の胸元に顔を埋め、腕に力を込めて彼を抱きしめた。
「ハル、大好きだよ」
「僕も……、澪依さんを愛してます」
耳元で囁く悠誠の甘い声に、胸がいっぱいになる。
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