第二章 僕が彼氏です

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「お前だけが俺に媚びなかった。だから、逆に落としてみたいと思ったんだ」 「何も仕事まで、落とそうとしなくても」 「そうでもしないと、お前は俺を見向きもしないと思ったからだよ。ちゃんと仕事は仕事で、本気で玉木の所と取引したいという思いもあるぞ」  真剣な眼差しで澪依を見つめるその瞳に、嘘は感じられなかった。  竜也の言っていることは、一理ある。仕事でなかったら、澪依は竜也に連絡されても会おうとすらしなかっただろう。  ましてや悠誠と付き合っているのだから、仕事以外で男性と二人きりになるのは、避ける。余計な心配を彼にかけたくない。  ちらりと悠誠の方を見れば、目が合い、自然と口元が緩む。彼への愛おしさが募る。  やはり、澪依は悠誠以外の人と付き合うことは想像ができない。こんなにも誰かのことを好きになれるとは、思いもよらなかった。 「神村くん、ごめんなさい。仕事の取引は、もう一度考えてみる。だけど、プライベートではお断りさせていただきます」  目を逸らさずに竜也を見て、深く頭を下げる。 しばらくの沈黙が続き、やがて竜也が大きく溜息をついた。 「そうか……。そんなに、コイツのことが好きなんだな」 「うん」 「気をつけろよ」 「え?」 「何かあったら、いつでも俺の所に泣きに来ていいからな」 「そんな日は、断じて訪れませんから」  すかさず、悠誠が口を挟む。 「ははっ、相変わらずの辛辣さだな。まぁ、これからは仕事の方でまた何度でも顔を出すから、宜しく」  片手を上げて、竜也は澪依たちに背を向け、静かに立ち去った。  竜也の姿が見えなくなり、悠誠は澪依を見つめた。 「澪依さん」 「ん?」 「ちゃんと断ってくれて、ありがとうございます。嬉しいです」 「うん、当然だよ。なんか、心配かけてごめんね。ハル以外の人と付き合うとか、考えられないから」 「僕もです」  悠誠は嬉しそうに目を細め、澪依の腕を自分の方へと引き寄せる。澪依は引っ張られるまま、彼の胸元に顔を埋め、腕に力を込めて彼を抱きしめた。 「ハル、大好きだよ」 「僕も……、澪依さんを愛してます」  耳元で囁く悠誠の甘い声に、胸がいっぱいになる。
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