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〜悠誠のプチ裏話そのニ〜
しばらく抱き合っていたら、澪依のお腹が小さく鳴った。
「あ」
「ふっ……」
つい、可愛くて笑ってしまう。
買い物もして、竜也の想いもしっかりと断ち切り、エネルギーを消費してしまったのだろう。
「そろそろお昼の時間ですし、お腹空きましたね」
「そ、そうね……」
耳を赤くしながら、澪依はそっと悠誠から離れた。俯いている彼女のつむじが見える。つい、可愛いつむじに唇を寄せてしまう。
「は、ハル!?」
「すみません。つい、可愛いつむじが目の前にあったもので」
「だ、だからって、ここ外……」
「それより、澪依さん。お昼は何が食べたいですか?」
「また、話をそらして……」
澪依は、少し怒ったように顔をしかめたが、空腹には勝てなかったようですぐに悠誠の質問に答えた。
「オムライスが食べたい」
「本当にオムライスが好きですね。この近くに美味しいと評判のお店があるので、行きましょうか」
「偵察も兼ねて、行こう!」
嬉しそうに歩き出す澪依の後を追う。
ふと振り返った澪依が悠誠を見上げる。
「そういえば、ハル。この前、聞きそびれたんだけど、神村くんが会社に来た時、何を話してたの? 彼、すごい剣幕で出て行ったけど」
「ああ、それは――――男の秘密です」
にこりと笑い、澪依の細い指に自分の指を絡ませて歩く。
「え、何それ! 神村くんとそんな関係だった?」
「時には、澪依さんが知らなくても良いことがあるんですよ」
「気になる」
「さぁ、お店並ぶかもしれないですし、急ぎましょう」
澪依の腕を軽く引っ張れば、彼女は渋々といった様子で横に並んで歩いた。
頭一つ分ほど下にある可愛い澪依の横顔を見ながら、悠誠は例の日のことを思い出す。
『神村様、話は終わりましたでしょうか。下にお迎えの車がいらっしゃっております』
悲鳴に近い澪依の声が聞こえ、気づけば悠誠は応接室の扉を開けていた。
自分が話している声なのに、違う人のように感じる。
中に入ると、青ざめて震えている澪依と至近距離に竜也が立っていた。瞬時に何があったのか悟り、悠誠は我慢ができなかった。
自分より背の低い竜也のネクタイを引っ張り、耳元で囁いた。
『彼女に近づかないでもらえますか。澪依さんの彼氏は、僕なので。あなたに彼女を渡す気はないですから』
『……!』
『叶わない恋なんて、諦めたらどうです? 仕事を理由にしないと会いに来れない弱虫さん』
『て、てめぇっ! 覚えてろっ』
顔を真っ赤にして、精一杯の捨て台詞とともに、竜也はドカドカと足音を立てながら、出て行った。
自分の腹黒い部分は、澪依にまだ見せれない。
悠誠がこんなにも独占欲が強く、嫉妬まみれな男だと知ったら、彼女は幻滅するだろう。今はまだ、澪依に嫌われたくない。
悠誠は、そっと彼女の手を強く握った。
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