第三章 彼女を僕にください

1/11
前へ
/71ページ
次へ

第三章 彼女を僕にください

「きたきたっ! 母さん、姉さんたちが来たよ!」 「あら、もう来たの? 思ったより早かったわね」  悠誠の運転で、澪依は正月ぶりに実家に帰ってきた。  車を降りると、玄関の扉が内側から開き、父、母、悠依の順で出迎えてくれる。いつもの光景だ。 「お帰り、澪依」 「姉さん、おかえりー」 「ただいま」  遅れて悠誠が、土産を手に車から降りてくる。仕事の時のように、優雅な動作でお辞儀をした。 「初めまして。稲垣悠誠と申します。澪依さんとお付き合いをさせていただいております。この度は、お祖父様の三回忌に僕も参列させていただき、ありがとうございます」 「澪依の父です。今日は来ていただき、ありがとうございます」 「母です。澪依と悠依がいつもお世話になっていて、ごめんなさいね」 「いえ、そんな滅相もないです」  両親と悠誠が交互に頭を下げている光景は、なんだか不思議だった。  彼氏を親に紹介するのは人生で初めてで、どうしたら良いか、来るまでずっと悩んでいた。だが、そんな悩みは杞憂に終わりそうだ。やはり、悠誠は何でも器用にこなせる男だった。 「これ、澪依さんにご両親の好みを聞いて、買ってきたものです。よかったら、皆さんで召し上がってください」 「まぁ! ここのバームクーヘン、好きなのよ」 「あ、母さんのお気に入りのお店じゃん」 「え、そうだったの?」 「そうそう、最近バームクーヘンにハマっててね。色んなお店のを食べてるんだけど、ここのが一番美味しくて」  母が嬉しそうに袋の中を見る。甘党であることは知っていたが、バームクーヘンにハマっているとは知らなかった。すごい偶然だ。 「なんだか、澪依さんに似てますね」 「「え?」」  悠誠の思わぬ言葉に、母と声が重なる。  今のやり取りで、どこが似ていたのだろうか。 「好きなものにハマると、色んなお店のものを食べたりとか」 「ああ、確かに! 母さんも姉さんもハマるとずっと同じのを食べてる!」 「言われてみれば、そうだな」  男性陣全員が納得したように頷き合う。  澪依は母と顔を見合わせ、首を傾げる。 「でもお母さんって、ハマるけど飽きっぽいよね?」 「そうねぇ。他のものに目移りしちゃうところはあるかも」 「そこは、澪依さんとは違うんですね」  悠誠がしみじみと呟いた。  なんだか、今日の彼はいつもより饒舌な気がする。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加