第三章 彼女を僕にください

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「それより、家に上がりなさい。そろそろ他の親族の方も来るから」 「そうだわ、色々と支度しないと。澪依、手伝って」 「うん」  父の一声で母がいそいそと台所に向かい、支度にかかった。澪依は母の指示に従いながら、料理の準備を手伝う。 「悠誠くん、テーブルのセッティングを手伝ってくれない?」 「いいよ」  悠依は悠誠を連れて、和室の大広間に向かった。台所から一本に伸びている廊下を突き進み、縁側がある所が大広間となっている。  玉木家は、昔ながらの純和風の屋敷だ。リフォームをして洋室も作ったが、来客も多いので、大広間は和室のままにしている。昔から、『朝ごはんは家族全員で揃って食べる』というルールがあり、この大広間を使っていた。  さらに、今年で創業52年を迎える居酒屋「たまき」を経営している。祖父の代から始まり、父は早くに引退して、悠依が跡を継いだ。今は日中にカフェも不定期で開いていて、昼と夜でお店を開くようになった。  お店は顔馴染みのお客様の口コミのお陰で、現在(いま)も繁盛しているようだ。悠依が古いものを残しつつ、新しいメニューやイベントをやっているのが反響を呼んでいるのだろう。  時々、澪依も運営の相談に乗っている。跡を継いでもらった負い目もあり、悠依には今後も全面的に協力していくつもりだ。  ありがたいことに、母は会計士の資格を持っているため、お店のお金を管理してくれている。引退した父は、手先が器用なのを利用して色々な物をDIYして、店先で販売を始めた。一家全員が何かしらの形で、「たまき」を守り続けている状態だ。 「悠依、悠誠くん。そっちが終わったら、料理を運ぶのを手伝ってくれるかしら?」 「はーい」 「分かりました」  母が台所から声を張り上げ、二人の返事が返ってきた。それを聞き、母は澪依を見た。 「悠誠くん、素敵な方ね」 「うん。わたしには勿体ないくらいだよね」 「そう? お母さんはお似合いだなぁって、二人が並んでる姿をみて、思ったわよ。ねぇ、お父さん?」 「ああ。仕事もできる男のようだしな」  魚を捌いていた父が手を動かしながら、答える。久しぶりに両親が台所に立っているのを見た。父が引退してからは、悠依がご飯を用意することが多かったからだ。  やはり、長い付き合いである二人は、息のあった動きをする。父が魚を切り終えれば、母がすかさず大皿を出す。父はその皿に切った魚を盛りつけ、その間に母はまな板と包丁を洗う。まさに、阿吽の呼吸だ。
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