142人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当にねぇ。今でも変わらずに来てくれる人がいて、有り難いわ」
ちょうどその時、いつの間にか姿を消していた父が、瓶ビールの入った籠を手に戻ってきた。
「母さん、日本酒はどこにやった? 親父の好きなやつ」
「ああ、お仏壇に置くのに大広間に置いてるわ」
「あ、父さん、それ持つよ。じいちゃんの好きな日本酒は仏壇に置いておいた」
またタイミングよく悠依と悠誠も戻ってきて、台所に全員集まった。
「そうか。じゃあこれも頼む」
「はいよー」
悠依がビールの籠を受け取り、また大広間へ運んだ。悠誠は、澪依の手元を見る。
「澪依さん、それ運びますよ」
「え、あ、ああ。ありがとう」
家と同じように、悠誠が運ぶのを手伝ってくれる。素直に澪依はグラスの乗ったお盆を渡した。すると、彼がじっと見つめてくる。その視線に戸惑いながらも見つめ返したら、母の咳払いが聞こえて我に返った。
「澪依、煮物の盛り付けを手伝って」
「う、うん」
澪依は、いつもの二人きりモードに入りかけていて、顔が赤くなる。
悠誠は何もなかったかのように、お盆を運んで行った。こういう時、対応に慣れている彼が羨ましい。
「……彼は、いつもあんな感じなのか」
父が珍しく口を挟む。あまり人に干渉しないタイプだったから、澪依は驚いた。
「いつも、というか二人の時は、そうかも」
「そうか。付き合ってどれくらいなんだ?」
「もうすぐ三ヶ月目かな」
「意外と短いんだな」
「うーん、まぁ付き合ってからはまだ短いかな。付き合う前だと、もうニ年ぐらいになる」
「……いいと思うぞ、父さんは」
「へ?」
普段からあまり父とは言葉を交わさない。元々父が無口な人だからというのもある。だから、久々にこんなに長く会話が続いたのは、正直驚きだ。それに加えて、突然の太鼓判ときた。澪依は頭が真っ白になる。
「どういう意……」
「そのままの意味だ」
急に恥ずかしくなったのか、父は耳を赤くしながら澪依に背を向け、汁物を温め始めた。
その隣では、母が可笑しそうに澪依たちを見つめている。
「素直なお父さん、好きですよ」
「う、うるさい。ほら、煮物の火、止めないと焦げるぞ」
「あら、大変っ」
父と母の並んでいる後ろ姿を見て、「理想の夫婦だな」と改めて澪依は思った。
最初のコメントを投稿しよう!