第三章 彼女を僕にください

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「本当にねぇ。今でも変わらずに来てくれる人がいて、有り難いわ」  ちょうどその時、いつの間にか姿を消していた父が、瓶ビールの入った籠を手に戻ってきた。 「母さん、日本酒はどこにやった? 親父の好きなやつ」 「ああ、お仏壇に置くのに大広間に置いてるわ」 「あ、父さん、それ持つよ。じいちゃんの好きな日本酒は仏壇に置いておいた」  またタイミングよく悠依と悠誠も戻ってきて、台所に全員集まった。 「そうか。じゃあこれも頼む」 「はいよー」  悠依がビールの籠を受け取り、また大広間へ運んだ。悠誠は、澪依の手元を見る。 「澪依さん、それ運びますよ」 「え、あ、ああ。ありがとう」  家と同じように、悠誠が運ぶのを手伝ってくれる。素直に澪依はグラスの乗ったお盆を渡した。すると、彼がじっと見つめてくる。その視線に戸惑いながらも見つめ返したら、母の咳払いが聞こえて我に返った。 「澪依、煮物の盛り付けを手伝って」 「う、うん」  澪依は、いつもの二人きりモードに入りかけていて、顔が赤くなる。  悠誠は何もなかったかのように、お盆を運んで行った。こういう時、対応に慣れている彼が羨ましい。 「……彼は、いつもあんな感じなのか」  父が珍しく口を挟む。あまり人に干渉しないタイプだったから、澪依は驚いた。 「いつも、というか二人の時は、そうかも」 「そうか。付き合ってどれくらいなんだ?」 「もうすぐ三ヶ月目かな」 「意外と短いんだな」 「うーん、まぁ付き合ってからはまだ短いかな。付き合う前だと、もうニ年ぐらいになる」 「……いいと思うぞ、父さんは」 「へ?」  普段からあまり父とは言葉を交わさない。元々父が無口な人だからというのもある。だから、久々にこんなに長く会話が続いたのは、正直驚きだ。それに加えて、突然の太鼓判ときた。澪依は頭が真っ白になる。 「どういう意……」 「そのままの意味だ」  急に恥ずかしくなったのか、父は耳を赤くしながら澪依に背を向け、汁物を温め始めた。  その隣では、母が可笑しそうに澪依たちを見つめている。 「素直なお父さん、好きですよ」 「う、うるさい。ほら、煮物の火、止めないと焦げるぞ」 「あら、大変っ」  父と母の並んでいる後ろ姿を見て、「理想の夫婦だな」と改めて澪依は思った。
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