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「ハル、今日は本当にありがとうね」
「いえ、なんだかんだ楽しかったですよ」
「相変わらず、女の子たちにきゃーきゃー言われてたね」
「ああ。あれは、おむらいす亭のことを話していたのですよ」
「え?」
テーブルを拭いていた澪依の手が止まる。悠誠はお盆の上に食器をどんどん積み上げながら、続けた。
「うちのオムライスは、それぞれのメニューに社長の想いが詰まっていることを話していたんです」
「そ、それで?」
「皆さん、写真を見てきゃーきゃーとテンションを上げていました」
「へぇ。悠誠くん、ちゃっかりしてるね」
空き瓶や空き缶を片付けている悠依が口を挟んだ。
「女性客は口コミ力がすごいので、売り込んで損はないから」
「ふーん。秘書もなかなか策士だな。じゃ、俺はちょっと店の裏にこれ置いてくる」
可笑しそうに悠依は笑いながら、空き瓶などでいっぱいになった籠を持ち上げて、店の裏にある瓶の回収場所へ片付けに部屋を出て行った。
「澪依さん」
「な、なに」
「嫉妬、しました?」
二人きりになった途端、急に悠誠はスイッチが入る。がらりと声色が変わった。
「べ、別に! 何を騒いでるのか気になっただけで」
思わず、声が大きくなる。だが、気になっていたことは事実だから、嘘は言っていない。けれど、悠誠が少し残念そうに俯く。
「……そうですか。ちゃんと僕は、店の宣伝という名の仕事をしたんですけどね。何か言うことは、ないですか?」
「あ、ありがとう?」
「他に」
「えっ! えっと」
真剣に考え込んでいると、気づけば悠誠の顔が目の前にあった。
「は、ハル?」
「僕の欲しい言葉、分からないですか?」
さっきの甘い声色とは違い、顔がすっかりイジワルモードだ。
腰に腕が回され、固定される。澪依は抵抗を試みるが、筋肉質の腕はびくともしなかった。
「澪依さん」
「……女の子たちに嫉妬、してましたっ」
「ふふっ、素直で宜しい。澪依さんにヤキモチを焼かれるのも悪くないですね」
「や、ヤキモチじゃないから! ちょっとモヤモヤしてただけ」
「ちょっと、ですか?」
首を傾げながら、悠誠が少し煽るように問いただしてくる。澪依は目を逸らそうとしたら、彼の指で顎をくいっと上に向けさせられた。
「なんで、目を逸らすのですか」
「べ、別に……」
「可愛い澪依さんにはお仕置きが必要ですね」
「え、ちょっ!」
悠誠の唇が澪依の弱い所を攻めていく。だんだん身体の力が抜けていきそうになり、澪依は慌てて両手で彼の肩を押し返そうとした。
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