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「あー、ごほん。お二人さん。仲良くしてるとこ、申し訳ないんだけど、入っても良い?」
その時、戻ってきた悠依が大広間の両開きになってる襖に寄りかかりながら、控えめに咳払いをしている。
「ゆ、悠依!」
「熱々だねー、二人は」
「い、いや、これはっ」
「いいよいいよ、後は俺が片付けとくし」
「それはダメ。まだ結構あるし、片付けはちゃんとやるわよ」
悠誠の手から何とか逃れ、急いで残りのテーブルを拭き、彼がお盆に乗せていた食器を奪うように持ち上げて、澪依は台所に片付けに行く。
悠依はその後ろ姿が見えなくなるのを確認してから、悠誠に向き直った。
「邪魔したみたいで、なんかごめんよ?」
「いや。……むしろ、困っている澪依さんのことを見かねて、助け船を出したんでしょ?」
「あ、バレてた? いやぁ、流石に見てられなくて」
悠依は頭に手をやり、へらりと笑う。悠誠は黙って、テーブルを畳み始める。
「悠誠くんはさ、何で姉さんと付き合おうと思ったの?」
「好きだから」
「即答だな。他にも理由はあるでしょ?」
「……側で支えたいと思えた人は、澪依さんが初めてだった」
「まぁ、姉さんはああ見えて、抜けてる所とかあるしね」
悠誠の言葉に、悠依はうんうんと何度も頷く。だが、しっかり手は動かしていて、テキパキと片付けが進む。
「悠誠くんって、女性と距離を置いてるように見えたから、不思議だったんだよね。女嫌いかと思ってたし」
「……」
「ほら、ジムのスタッフさんとかにも素っ気ない態度だしさ」
「そんなに素っ気ない?」
「あ、自覚なし? そっかそっか」
何故か悠依は、納得したように勝手に一人で頷いている。
「でも、姉さんに対してだけは激甘な対応みたいだから、安心した」
「別に、他の人には興味ないだけで」
「うん。仕事モードでの事務的な対応だよな。それでいいと思う」
悠誠は目を見張った。悠依のあっけらかんとした態度に驚く。
彼は、悠誠の目から見ても、恐らく隠れシスコンだ。その悠依に、澪依以外の女性に対しては、表面的な対応しかしていないことを見破られているとは思わなかった。
飄々としているようで、意外と悠依の観察力を侮ってはいけないかもしれない。
「まっ、姉さんのこと、これからも宜しく頼むよ。あ、俺とも遊んでよ?」
「あ、ああ」
「よっしゃ、なら残りも一気に片づけよ!」
悠依は気合を入れて、どんどんテーブルを畳んでいく。その後は特に澪依の話に触れることもなく、他愛もない話をしながら、残りを片付け終えた。
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