第三章 彼女を僕にください

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 翌朝、悠誠が起きる気配で、澪依は目を覚ました。  悠依にイチャついてる所を見られた後、悠誠は残りの食器を手に台所にやってきて、一緒に洗い物を片付けてくれた。悠依はというと、片付けを終えて、先にお風呂に入ったようだった。  二人とも無言で洗い物をしていて、気づけば悠誠の唇が澪依に触れていた。  いつもより長めのキスで、濃厚かつ静かに口づけを交わす。人の気配を感じながらするキスは、いつもの数倍小っ恥ずかしい。  思い出しただけで、顔から火が出そうだ。 「澪依さん、起きてますか」 「ん……」  悠誠が普段と変わらず、澪依を起こす。昨夜のことを思い出していたため、澪依は布団から顔を出せない。赤くなっている顔を見たら、彼のイジワルモードを触発させてしまうだろうから。 「先に着替えて、降りてますね。澪依さんも起きて、着替えてください」 「んー」  右腕だけ布団から出して、澪依はひらひらと手を振る。普段の家での光景と同じだから、違和感はないはずだ。だが、悠誠の柔らかい唇を手の甲に感じ、びくりと反応してしまう。  彼は特に気にせず、そのまま部屋を出て行った。階段を降りていく足音を聞きながら、澪依は小さくため息をつく。 「実家にいる方が心臓、持たない気がする……」  自分の心臓の音がどくんどくんと速い。今日一日持つか、心配になりながらも布団から出て、私服に着替えた。  一階に降りると、悠依が台所で朝ご飯を作っていた。 「あ、姉さん! おはよ。よく寝れた?」 「おはよ、悠依。うん、寝れたよ」 「よかった。布団干したから、ふかふかだっただろ?」 「寝心地、最高だった」 「そりゃあ、良かった。もうすぐ朝ごはんできるから、座って待ってて」 「お母さん達は?」 「庭で野菜を収穫してると思う」  悠依は無駄のない動きで、朝ごはんを五人分用意していく。ふと、悠誠の姿が見当たらないことに気づいた。 「ねぇ、悠依。ハルもいないけど、どこに行ったか知ってる?」 「ああ、さっき母さん達に連れて行かれてたよ。すっかり悠誠くんのこと、気に入っちゃってる」 「そっか。まぁ、よかったかも」 「流石、悠誠くんだね」 「うん。なんでも卒なくこなすから、羨ましい」 「姉さんは不器用だもんなぁ」  悠依はニヤニヤしながら、澪依を見る。 「うるさいわね」 「姉さんの面倒見れる人で、俺は安心だよ」 「そんなに不安要素あった? わたし」 「ちょっとだけ、ね」  くだらない会話をしながら、悠依の手伝いをしようと食器棚からお皿を出している間に、父たちが戻ってきた。
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