第三章 彼女を僕にください

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「今日も大量だぞ」 「お、いいね! それでサラダ作るか」  父の手にしている籠には、色とりどりの野菜がたくさん入っていた。ピーマンやトマト、サニーレタスにきゅうり。まさに、今シーズンの夏野菜だらけだ。  早速、野菜を受け取った悠依がもう一品、作り始める。 「すごい! これ全部、お父さんたちが作ったの?」 「ああ、母さんとな。ご近所さんに教わりながら、やってる。意外と楽しいぞ」 「そうなのよ。身体を動かすのにもいいし、何より生長が嬉しいのよねぇ」  父が珍しく目を輝かせながら、母と話している。よほど農作業が性に合っているようだった。 「はいはい、朝メシできたよー」  まだ語りたそうにしている父を押しやり、悠依がお皿を持って会話に割り込んできた。 「悠誠くん、これとこれを大広間に持っていて」 「わかった」 「姉さんは、お箸とか宜しく」 「はーい」  五人分の朝ごはんを分担して、大広間に持っていき、各々指定の位置に座った。  祖父の仏壇が見える位置に父と母が座り、悠依は出入り口に近い、いわゆる誕生席に座っている。悠誠と澪依は、自動的に父と母の真向かいに座る形となった。 「それじゃあ、両手を合わせて」 「いただきます」  悠依の掛け声で両手を合わせ、全員の声が重なる。まるで、昭和の家族のような光景だ。 「朝の採れたての野菜は、どうだ?」  早速、悠誠がサラダを食べたのを見計らい、父が感想を求める。 「瑞々しくて、新鮮さもあって凄く美味しいです」 「だろう。採れたては、癖になるよなぁ」  父は嬉しそうに頷きながら、自身もサラダを頬張る。澪依もサラダを口に含み、目を見開く。 「何これ、すごいシャキシャキで美味しい……」 「でしょう? 採れたての新鮮さって、スーパーのとかと全然違うわよねぇ」 「うちのベランダでもできるかな? 家庭菜園、ちょっと興味あったんだよね」 「あら、苗とか持って帰る?」 「え、あるの?」 「澪依さん。ちゃんと育てられるのですか?」 「うぐ……」  悠誠の鋭い指摘に、澪依は返事に詰まる。  仕事の関係で花などが届いたり、直接もらうことがあるのだが、澪依は幾度となくすぐに枯らしてしまっているのだ。昔から植物などを育てるのは、苦手だった。小学校の夏休みの課題で、よくある花を育てて観察する系は、悠依がやってくれていた。 「で、でも、ハルもいるし? ハルの実家は、お花屋さんでしょ」 「花なら育てられますが、僕だって、流石に野菜の育て方は知らないですよ」 「うう……」
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