143人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日も大量だぞ」
「お、いいね! それでサラダ作るか」
父の手にしている籠には、色とりどりの野菜がたくさん入っていた。ピーマンやトマト、サニーレタスにきゅうり。まさに、今シーズンの夏野菜だらけだ。
早速、野菜を受け取った悠依がもう一品、作り始める。
「すごい! これ全部、お父さんたちが作ったの?」
「ああ、母さんとな。ご近所さんに教わりながら、やってる。意外と楽しいぞ」
「そうなのよ。身体を動かすのにもいいし、何より生長が嬉しいのよねぇ」
父が珍しく目を輝かせながら、母と話している。よほど農作業が性に合っているようだった。
「はいはい、朝メシできたよー」
まだ語りたそうにしている父を押しやり、悠依がお皿を持って会話に割り込んできた。
「悠誠くん、これとこれを大広間に持っていて」
「わかった」
「姉さんは、お箸とか宜しく」
「はーい」
五人分の朝ごはんを分担して、大広間に持っていき、各々指定の位置に座った。
祖父の仏壇が見える位置に父と母が座り、悠依は出入り口に近い、いわゆる誕生席に座っている。悠誠と澪依は、自動的に父と母の真向かいに座る形となった。
「それじゃあ、両手を合わせて」
「いただきます」
悠依の掛け声で両手を合わせ、全員の声が重なる。まるで、昭和の家族のような光景だ。
「朝の採れたての野菜は、どうだ?」
早速、悠誠がサラダを食べたのを見計らい、父が感想を求める。
「瑞々しくて、新鮮さもあって凄く美味しいです」
「だろう。採れたては、癖になるよなぁ」
父は嬉しそうに頷きながら、自身もサラダを頬張る。澪依もサラダを口に含み、目を見開く。
「何これ、すごいシャキシャキで美味しい……」
「でしょう? 採れたての新鮮さって、スーパーのとかと全然違うわよねぇ」
「うちのベランダでもできるかな? 家庭菜園、ちょっと興味あったんだよね」
「あら、苗とか持って帰る?」
「え、あるの?」
「澪依さん。自分でちゃんと育てられるのですか?」
「うぐ……」
悠誠の鋭い指摘に、澪依は返事に詰まる。
仕事の関係で花などが届いたり、直接もらうことがあるのだが、澪依は幾度となくすぐに枯らしてしまっているのだ。昔から植物などを育てるのは、苦手だった。小学校の夏休みの課題で、よくある花を育てて観察する系は、悠依がやってくれていた。
「で、でも、ハルもいるし? ハルの実家は、お花屋さんでしょ」
「花なら育てられますが、僕だって、流石に野菜の育て方は知らないですよ」
「うう……」
最初のコメントを投稿しよう!