第三章 彼女を僕にください

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 基本は澪依に甘い悠誠だが、育てる系になると厳しい。彼の実家は花屋で、生き物を育てる大変さなどを小さい頃から叩き込まれたと言っていた。だから、動物を飼いたいと言った時も同じ反応をされる。 「稲田くんのご実家は、花屋なのか」 「はい。小さい店ですが」 「まぁ、うちと似てるわね。自営業なところ」 「そうですね。僕の家は、父の代から店を始めたので、まだ創業して20年ぐらいです」 「へぇ、それでも結構長いよ! 悠誠くんの所で、店に飾る花とかを買おうかな」 「あら、いいわねぇ」  何だか思いもよらない方向に、話が進んでいる気がする。しかも、澪依のベランダ家庭菜園案については、さらりと流されている。  澪依は疎外感を覚え、会話に参加できずに黙々と箸を進めることにした。悠誠が家に来てから、父も母もよく喋る。すっかり彼と打ち解けたようだ。良いことではあるけれど、何だか複雑な気持ちだった。 「それでは、後で店内の写真とテーマや色など、イメージするものを送ってください。それを元にお店に合いそうな花をいくつかピックアップさせていただきます」 「分かったわ。悠依に送ってもらうわね」 「はい。なるべく、ご希望に添えるように伝えておきますので」 「ありがたいご縁だわ。ね、澪依?」  どうやら、悠誠の実家の花を買う方向性で、話はまとまったようだ。すっかり仕事モードで隣に座る悠誠は、常に持ち歩いてる手帳に箇条書きで何やら書き込んでいる。澪依は曖昧に頷きながら、残りのサラダを口にする。 「そういや今日、姉さんたちは何時に帰るの?」  悠依がいつの間にか先に食べ終えていて、食器を重ねながら尋ねた。 「ご飯食べたら、帰るつもり」 「え、そんなすぐ?」 「うん。明日から仕事だしね」 「もう少しゆっくりしていったら? ねぇ、お父さん」 「ああ。せっかく帰ってきたんだしな」  家族総出で、澪依たちを引き留めようとする。いつもならあっさりと見送るのに、今回は悠誠がいる効果か、普段と態度が違う。 「悠誠くんも、もう少しここに居たいでしょう?」  母が同意を求めるように、彼に話を振った。悠誠は、ちょうど最後の卵焼きを口に入れたところだった。よく噛み、飲み込んでから口を開く。 「あの、実は皆さんに大事なお話があるんです」  改まった言い方に、玉木家一同はぽかんとする。 「ハル?」  代表して、澪依が彼の名を呼ぶ。悠誠は箸をテーブルに置いて、背筋をしゃんと伸ばし、父と母を真っ直ぐに見つめた。二人も何かを察したのか、居住まいを正す。
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