第三章 彼女を僕にください

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「お義父さん、お義母さん」 「はい」 「なんだ?」 「僕は、澪依さんと結婚したいと思っています」 「ええっ!?」  まさか悠誠の口から「結婚」という言葉が出てくるとは、思いもよらなかった。予想外のことに、父や母より澪依本人が驚く。 「ど、どういうこと?」 「言葉通りです。前に言ったことを覚えていないですか?」 「い、いや、覚えてるよ!? で、でもあれって、まだ付き合う前だったし……」 「もちろん、今すぐに、ではないです。澪依さんの気持ちが固まったら、という約束なので」 「た、確かに約束……した、かも?」  結婚云々の話をしたのは、付き合う前の飲み会の席だった気がする。あの時は酔っていたので、記憶が曖昧だ。しかも、その場しのぎの冗談だと思っていた。そもそも付き合うことすら、当時は一ミリも想像すらできなかった。 「今回、ご家族にお会いできる機会をいただけたので、きちんと僕の気持ちをお伝えしておきたくて」 「あらあら、お父さん。こんな素敵な方がお婿さんに来てくれたら、私達も嬉しいわよねぇ」 「……ああ」 「俺も賛成ー! 悠誠くんなら、姉さんのことをちゃんと幸せにしてくれると思う」 「いやいや!? まだわたしは何も」  何故か家族全員、悠誠と結婚することに賛成のようだ。澪依だけ、まだ気持ちが追いついていない。 「澪依」  父が静かに名前を呼ぶ。自然と背筋が伸びる。昔から父に対しては恐れもあって、条件反射で姿勢がよくなってしまう。 「結婚するかしないかは、お前の自由だ。お前の気持ちが一番大事だから、どうしたいかはゆっくり考えなさい。でも、彼がきちんと自分たちの前で、改めて気持ちを言葉で伝えたことがどういうことかも、分かるな?」 「……はい」  普段あまり喋らない父だからこそ、言葉に重みがあった。「いつまでも逃げずに、現実と向かい合って、ちゃんと考えろよ」と暗に言われたのだ。だから、澪依はしっかりと目を見て、返事をした。 「あ、そうだ! 野菜が余ってるから持って帰る?」  悠依が深刻な空気を吹き飛ばすように、明るく話を変えた。 「そうよ! たくさん採れたから、持って帰りなさい。今、袋に入れてまとめるわね」  母も腰を浮かせて、野菜を取りに行こうとする。父も食べ終えた食器を黙々と片付け始めた。澪依と悠誠は互いに顔を見合わせ、少しだけ口角を上げる。 「お言葉に甘えて、野菜をいただいて帰りましょうか」 「うん、そうしよう」 「悠誠くん、これもいる? とうもろこし」 「あ、これも美味しいわよ。ナス!」 「ちょっと二人とも! そんなにあっても食べきれないよ!?」  朝から玉木家の台所では、笑いに包まれていた。
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