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株式会社OMUは大手企業であり、卵料理を推しているライバル企業だ。しかも厄介なことにそこの社長が、高校時代の同級生の神村竜也なのだ。
昔から俺様タイプで、親の会社を継いでる正真正銘のお坊ちゃまである。
最近、グループ会社にならないかと毎日のように話を持ちかけてきて、少々困っている。「暇なのか」と、言いたくなってしまう。
「……社長、失礼します」
扉がノックされ、返事も待たずに悠誠が入ってきた。
「話は聞きました。二階の応接室を押えてあります」
「仕事が早いわね。ありがとう。今日の会食って、何時からどこなの?」
「十二時から六本木になります」
「六本木ね。神村くんとの打合せは、一時間で切り上げれば、間に合うよね?」
「はい。車は、下に手配しておきます」
「分かった。行くまでに、この書類を片付けられるだけ片付けるから、もう下がっていいわ」
書類の束に手を伸ばし、目を通していく。
けれど、悠誠がなかなか立ち去ろうとしない。不思議に思い、顔を上げたら彼と目が合う。
「どうしたの?」
「……僕も立ち会わなくて、大丈夫ですか?」
「え、別に大丈夫だけど?」
「そうですか……。かしこまりました。失礼します」
何故か、彼の後ろ姿がどことなく寂しそうに見えた。
引っかかりを覚えつつも、すぐに優先順位の高い書類の確認作業に戻る。
半分ぐらい書類を確認し、捺印を済ませたところで内線が鳴った。悠誠からだ。
「はい」
『社長、OMU社の神村様がお見えになりました』
「すぐ行くから、応接室にお通しして」
『承知いたしました。……社長』
「なに?」
『応接室の外で待機しておりますので、何かあったらすぐにお声がけください』
「わ、分かった」
受話器を置き、首を傾げる。
悠誠の様子が何だかおかしい。あまり仕事の時は介入してこないのに、今日はやたら心配しているような、何かを危惧してる感じがする。
だが、すぐに頭を切り替え、身だしなみを整えてから応接室に向かう。
あまり長く待たせると、竜也はすぐ機嫌を損ねる。本当に厄介な人だ。
応接室に辿り着くと丁度、お茶出しを終えた社員が出てくる所だった。まだ悠誠の姿はない。
お茶出し係の社員に礼を言い、扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼いたします」
中から低くくぐもった声が聞こえ、扉を開けたら、派手な柄の赤いネクタイが視界を覆った。
「!?」
「会いたかったぞ! 玉木」
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