第四章 私の方が好き

4/17
前へ
/71ページ
次へ
「澪依さん?」 「……お粥、ちょっと食べる」 「分かりました。熱いので、気をつけてくださいね」  鍋から小皿に移し、息を吹きかけて冷ましてくれる。まるで、子供に戻ったようだ。 「ハルが居なかったら、わたし、野垂れ死んでたかも」 「同棲するメリットを1個、見つけましたね」 「本当に、ハルが居てくれてよかった……」  冷ましてもらったお粥を口に運び、今の幸せを一緒に噛みしめる。  付き合ってから同棲するまでに、ひと悶着あったことも思い出す。当時は仕事にのめり込んでいたのもあって、誰かと住むことが考えられなかったのだ。だが、悠誠は家事もできて、仕事では専属秘書だから、スケジュールも把握してくれている。澪依にとっては、同棲しない方がデメリットが大きい相手だった。 「あ、そうだ。澪依さん、熱も測りましょう」 「ん」  悠誠は、お盆の上に載せていたフルーツ皿と一緒に体温計も手渡す。先に体温計を脇に挟み、キウイとブドウが乗った皿を受け取る。 「好きなやつだ」 「ブドウは、奮発しました」 「いいの?」 「大丈夫です。普段から家計費は、余裕過ぎるほどなので」 「結構、買ってたりしてるけどな」 「人より欲が少ないですよ、澪依さんは」 「そうなのかなぁ」  実は、家計費も彼に任せていた。お金の管理は苦手ではないが、悠誠が自分の分と合わせて管理するのが楽だというので、お願いしている。  ちょうど良いタイミングで、体温計が鳴った。澪依は脇から取り出し、目を剥く。 「うそ、上がってる……」 「三十九度五分ですか。明日も会社は休みましょう」 「うう、仕事が」 「大人しく寝ていてください」  食べきったフルーツ皿を取り上げられ、そのまま彼に寝かしつけられる。 「申し訳ないのですが、明日、僕は出社しないといけなくて」 「そっか。今日は、在宅にしてくれたもんね」 「はい。澪依さんを一人にはしておけないので」 「これでも一人暮らし経験は長いんですけど」 「僕が心配で、気が気じゃないのですよ。それで、明日も在宅にするつもりだったのですが、外せないお客様がいらっしゃるので」  申し訳無さそうに、悠誠は澪依を見た。何となく来客が誰なのか、予想できた。 「もしかして」 「はい、僕が対応しなければならない方です」 「たまご屋さんのとこのお嬢さん」 「はい……」 「あの()、ハルのこと大好きだよね」 「終わったら、すぐ帰ってきますので」 「う……ん……」  薬も飲み、お腹も満たされたからか、澪依は会話中にあっという間に夢の世界へ引き込まれた。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加