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「澪依さん?」
「……お粥、ちょっと食べる」
「分かりました。熱いので、気をつけてくださいね」
鍋から小皿に移し、息を吹きかけて冷ましてくれる。まるで、子供に戻ったようだ。
「ハルが居なかったら、わたし、野垂れ死んでたかも」
「同棲するメリットを1個、見つけましたね」
「本当に、ハルが居てくれてよかった……」
冷ましてもらったお粥を口に運び、今の幸せを一緒に噛みしめる。
付き合ってから同棲するまでに、ひと悶着あったことも思い出す。当時は仕事にのめり込んでいたのもあって、誰かと住むことが考えられなかったのだ。だが、悠誠は家事もできて、仕事では専属秘書だから、スケジュールも把握してくれている。澪依にとっては、同棲しない方がデメリットが大きい相手だった。
「あ、そうだ。澪依さん、熱も測りましょう」
「ん」
悠誠は、お盆の上に載せていたフルーツ皿と一緒に体温計も手渡す。先に体温計を脇に挟み、キウイとブドウが乗った皿を受け取る。
「好きなやつだ」
「ブドウは、奮発しました」
「いいの?」
「大丈夫です。普段から家計費は、余裕過ぎるほどなので」
「結構、買ってたりしてるけどな」
「人より欲が少ないですよ、澪依さんは」
「そうなのかなぁ」
実は、家計費も彼に任せていた。お金の管理は苦手ではないが、悠誠が自分の分と合わせて管理するのが楽だというので、お願いしている。
ちょうど良いタイミングで、体温計が鳴った。澪依は脇から取り出し、目を剥く。
「うそ、上がってる……」
「三十九度五分ですか。明日も会社は休みましょう」
「うう、仕事が」
「大人しく寝ていてください」
食べきったフルーツ皿を取り上げられ、そのまま彼に寝かしつけられる。
「申し訳ないのですが、明日、僕は出社しないといけなくて」
「そっか。今日は、在宅にしてくれたもんね」
「はい。澪依さんを一人にはしておけないので」
「これでも一人暮らし経験は長いんですけど」
「僕が心配で、気が気じゃないのですよ。それで、明日も在宅にするつもりだったのですが、外せないお客様がいらっしゃるので」
申し訳無さそうに、悠誠は澪依を見た。何となく来客が誰なのか、予想できた。
「もしかして」
「はい、僕が対応しなければならない方です」
「たまご屋さんのとこのお嬢さん」
「はい……」
「あの娘、ハルのこと大好きだよね」
「終わったら、すぐ帰ってきますので」
「う……ん……」
薬も飲み、お腹も満たされたからか、澪依は会話中にあっという間に夢の世界へ引き込まれた。
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