第四章 私の方が好き

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 澪依は体温計を脇に置き、スマホを手にして、たまご屋にメールを一通送った。そのまま、弟の悠依に電話をかける。 『おはよ、姉さん。どうした?』 「おはよう、悠依。今、平気?」 『大丈夫。風邪、治った?』 「うん、昨日から熱も下がって、良くなってる」 『よかった。で、何? 何か必要?』  悠依は察しがいい男なので、基本的に質問が的確かつ端的になる。そこは姉弟で似ているところだ。澪依も要件を端的に伝える。 「今日、取引先の娘さんの誕生日パーティーに呼ばれてて」 『あー、ドレスね』 「そう。どれ、着ればいいかな」 『取引先だもんなぁ。娘さんって、いくつなの?』 「確か、二十二歳ぐらいだったかな」 『うわ、若っ! うーん、清楚系路線が無難だろうね』  電話をスピーカー機能にして、クローゼットを開ける。実は、昔から澪依は服のセンスが壊滅的だった。高校までは制服だったから何とかなっていたものの、大学からが大変だった。一方、悠依はファッションセンスが良く、小さい頃から姉を着せ替え人形代わりにして遊んでいた。大学時代の時は一緒に買い物に連れ回され、色んなジャンルの服を着せられたものだ。  なので、澪依のクローゼットにある服は、基本どれも悠依や悠誠が選んだものばかりである。悠誠もまたセンスの塊で、澪依の好みどストライクのものを選んでくれる。 『確か、青のふわっとした七分袖で、ウエストがリボンで締めるドレスなかった?』  「ある」 『それか、ベージュのタイトワンピースのやつ。胸元にレース刺繍入ってる』 「うん。それもある」 『それのどっちかでいいと思うよ』 「ありがとう、助かる」  『ていうか、悠誠くんに聞けばいいじゃん。俺なんかより相手のタイプ知ってるから、的確に選んでくれるでしょ』 「いや、まぁ」  返事を濁そうとしたら、悠依にすかさず鋭い指摘をされる。 『え、なになに、喧嘩?』 「いや、喧嘩ではない」 『じゃあ、浮気とか?』 「ばか。まだ結婚もしてないから」 『まぁ、悠誠くんに限って、そういうことないだろうしなぁ』 「……それは、どうだろう」 『え』  絶句、という言葉が相応しいほどの素直な反応だった。思わず出てしまった言葉に、澪依自身も驚いてしまう。 「忙しい時にコーデを考えてくれて、ありがとうね。じゃあ、またね」 『え、ちょっ、姉さ』  悠依から次の質問が来る前に、澪依は無理矢理、通話を終了させた。少々強引だったが、致し方ない。まだ自分の中でも、気持ちが整理できていないのだから。今は何も聞かれたくなかった。
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