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「はぁ。……何やってんだろう、わたし」
スマホをベッドに起き、大きくため息をつく。
大人気ないと分かってはいるが、本人の口からちゃんと薫子にどう誘われたのか、どう思っているのか、澪依は聞きたかったのだ。このモヤモヤは、恐らく嫉妬だろう。自分が嫉妬する日がくるとは、思わなかった。
今までの付き合いは、お互いに干渉せず、ただ出掛けたり、欲を満たすような淡白な関係の人ばかりだった。だが、悠誠は違った。ぐいぐいと人の懐に入ってきて、弱い所も全部晒しても受け入れてくれる人で、澪依にとっては今まで付き合ったことのないタイプの人だ。
「ちゃんと、自分の気持ちを言わないといけないよね……」
澪依はぐっと拳を握りしめ、クローゼットにかかっているドレスを見つめる。
当日予約が可能な美容院で、パーティー用のヘアセットとメイクをしてもらい、その足でパーティー会場になっているホテルへ向かった。
「おお、玉木くん。来てくれて嬉しいよ」
「佐伯さん、本日はお招きいただきありがとうございます」
ホテルの入口では、たまご屋の社長である佐伯本人が待っていた。
「いやいや、こんなべっぴんさんに来てもらえて、娘も喜ぶ」
「そんな」
「見違えるほどに美しいよ。そのドレスもいい」
「ありがとうございます」
上から下まで一瞥し、佐伯は満足そうに笑う。やはり、体のラインが出るタイトスカートの方を選んで、正解だったようだ。
第一関門である主催者の佐伯を喜ばせることに成功し、澪依は胸をなでおろす。これからも取引を続けてもらうために、印象は大事だった。
「もうすぐ、娘と稲垣くんも来るようだよ」
「そうですか」
「今日は、玉木くんは会社ではなかったのかい?」
「念のため、今日まで休みを取っていまして」
「そうかそうか」
秘書である悠誠と別行動していることに、疑問を持たれることは想定内だった。嘘は言っていない。
今日まで休みだったのは確かだが、このパーティーに出席することを悠誠以外の秘書に電話で伝えたら、「仕事せずに、ちゃんと休め」と怒られた。パーティーの参加も仕事の内らしい。しっかり仕事のスケジュールとして、秘書たちが管理しているカレンダーに記録されてしまった。そのカレンダーは秘書全員が見れるもので、もちろん澪依の専属秘書である悠誠は総括係だから当然、目を通す。後で悠誠にバレたら、怒られることは確実だ。気が重くなるが、仕方ない。澪依は腹を括り、先を歩く佐伯についていく。
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