第四章 私の方が好き

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「その手を離してもらえますか? 俺の大事な人の手を」  聞き覚えのある声に振り返れば、そこには竜也がワイングラスを片手に、眉間に皺を寄せて立っていた。 「神村くん……」 「お、OMU社の神村!?」 「えーっと、あなた確か……。中野さんでしたっけ?」 「野中だよっ!」 「ああ、そうそう! 野中さん。どうも、こんばんは。その手、早く離してもらっても?」  口元は笑っているが、目が笑っていない。竜也はさり気なく、澪依の手首を掴んでいる駿介の手の上に自分の手を置いた。 「いてててっ」 「おっと、失礼。最近ちょっと、手の力加減が難しくて」  わざとらしく竜也はおどけて手を離すと、駿介の手が澪依から離れた。どうやら、手を捻ったようだ。痛そうに擦りながら、駿介は竜也を睨む。 「何故、あなたがここに」 「たまご屋さんの卵をうちも贔屓にさせてもらってますからね。今回、娘さんの花婿探しに呼んでいただけたのですよ」 「やっぱり、花婿探しの意味もあったのね」  思わず、澪依は口を挟んでしまう。 「そう。佐伯さんの企みみたいだ」 「え、でも、じゃあ何でわたしも呼ばれたのかしら」 「それは、今話題の渦中にある女社長さんだからじゃないか?」 「話題の渦中?」  何のことだか、全く心当たりがない。さっき、駿介も似たようなことを言っていた。澪依は首を傾げる。 「どうやら、お二人が親しいという噂は、本当みたいですね」  駿介が口の端を上げ、ニヤニヤと竜也と彼女を見つめた。澪依は竜也と顔を見合わせる。 「噂?」 「お二人は、お付き合いされているとか?」 「あー、それは全くのデタラメね。単純に同級生ってだけよ」 「へぇ、そうなんですか。では、今、玉木さんはフリーと」 「あ、止めとけ止めとけ。コイツ、彼氏いる上に、かなりヤバい奴だから」 「ちょっと、何言って」  竜也が、余計なことを言いそうな気配がして、澪依は慌てる。だが、またもや背後から聞き慣れた声がした。 「まあ、玉木さん。いらしていたんですね!」 「薫子さん……」  このパーティーの主役の登場だった。「どうして、お前がここにいるんだよ」って、貼り付いた笑顔の下で思っていそうだ。  当の薫子は、隣に立つ男性の腕に自分の腕を絡めて、寄りかかるようにして立っている。その男性の顔を見て、澪依はやはり、とため息をつきそうになった。 「……稲垣くん」 「澪、依さん……! どうしてここに」  悠誠は目を見開いていた。ここまで驚く彼は、逆にレアかもしれない。しかも、見たことのないタキシードを着ている。とても彼に似合っていて、それもまた何だか複雑な気持ちになる。 「それより、今日はじゃなかったの?」 「それは」 「あら、玉木さんって、秘書のプライベートな予定とかも把握して、口を出すタイプの社長なんですの?」
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