第四章 私の方が好き

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 薫子がわざとらしく、大きな声を出した。 彼女の声はよく通る。彼女の計算通り、何事かと周りにいた人たちもこちらに注目し始めた。  澪依は一つ大きく深呼吸して、薫子の目をじっと見つめながら、努めて静かな口調で話す。 「彼女が、の予定を把握しているのは、可笑しいのかしら?」 「か、彼氏……!?」  澪依の口から発せられた言葉に、薫子は目を剥いた。どうやら、悠誠は付き合っていることを言っていなかったようだ。 「え、ええ……? どういうことですの……」  完全に混乱している様子の薫子に、悠誠はさり気なく絡まれている腕を外し、頭を下げる。 「申し訳ございません、佐伯様」 「悠誠さ……ま?」 「お仕事上でのお付き合いでしたら、今後も玉木ホールディングスと共に仲良くさせていただきたいと考えております。ですが、プライベートでは、僕は澪依さん以外の女性には全く興味がないので、お断りさせていただきます」 「え、でも今日、でぇとに来てくれたのは」 「澪依さんにとって、メリットになりそうな案件でしたので」 「め、メリット?」 「ここのレストランとおむらいす亭のメニューでコラボなどが出来ないか、考えていました」 「……!」  薫子は啞然としている。澪依も、まさかデートという名目で薫子に誘われていたことと、仕事と澪依のことしか頭にない彼の溺愛ぶりに、呆気にとられる。嘘をつかれていたことに悩んでいた自分が、阿呆らしく思えてきた。どこまでも悠誠は、悠誠だったのだ。  彼の澪依への気持ちがブレることがないことは、今までの言動で分かっていたはずだった。どこまでも彼の中では、澪依が中心で自分のことは二の次なのだ。 「……ばか」 「澪依さんのばかは、僕のことが好きってことですよね?」 「さぁ? 知らない」  顔を赤くしながら、そっぽを向くと悠誠に抱きしめられる。 「嘘をついてて、すみませんでした」 「……帰って、オムライス作ってくれたら、許す」 「はい、喜んで」 「あー、おほん。そこのお二人さん? 俺たちもいるのを忘れてない?」  竜也の声で、澪依は我に返る。すっかり悠誠のペースに巻き込まれ、二人の世界になっていたことに気づき、顔がさっきより熱い。 「ああ、そうでした。神村様、社長を変な虫から助けていただき、ありがとうございました」 「む、虫っ!?」 「いや、別に。お前より先に玉木のことを助けられたし、ちょっとは俺にぐらっと」 「してないから安心して、神村くん」 「んだよ! 間髪入れずに言うとか、相変わらず可愛くねぇ」 「む、虫って、僕の」 「ちょ、ちょっと、あなた達! わたくしを無視するなんて、どういうことですの!?」  薫子の半分悲鳴に近い声で、一同は黙り込んだ。その中、澪依が一歩踏み出して、薫子に歩み寄る。
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