〜悠誠のプチ裏話その四〜

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 やがて、車がエントラスに着き、悠誠はすぐさま車から降りて、薫子をエスコートする。その無駄のない動きに、薫子はうっとりとした表情でこちらを見つめてくる。その視線を無視して、タキシードを手にホテルの中へ入っていく。 「お着替えはこちらで」  スタッフの人に案内され、一旦薫子とは別れて、着替えができる部屋に通された。素早くスーツからタキシードに着替え、鏡で最終確認をする。驚くほど身体にフィットして、馴染んだ。  スーツを専用カバーに入れて受付に向かうと、薫子が悠誠をすぐに見つけて駆け寄ってくる。 「悠誠様! とってもお似合いですわ」 「ありがとうございます。サイズがピッタリで、着心地も非常に良いですね」 「気に入ってもらえたみたいで、嬉しいですわ」  上から下まで悠誠の姿を見て、薫子は満足そうに微笑む。 「それでは、行きましょうか」  当たり前のように、薫子は悠誠の腕に自分の手を添え、横に並んで歩き出した。受付でスーツを預けて、突き当りまで進むと大きな扉が見えてきた。両側にドアマンがいて、薫子の姿を見つけ、扉が開かれる。 「悠誠様、こちらですわ」  薫子に連れられるがまま、歩いていくと立食パーティーが開催されていた。よく見ると何故か男性客が多い。 「あの、佐伯様」 「何ですの?」 「ここは」 「ああ、悠誠様にはお話しておりませんでしたわね。実は、今日ここでわたくしの誕生日パーティーが行われるのです」 「なるほど」  やはり、男性客が多いということは、薫子の花嫁探しといったところか。悠誠にタキシードを着せたのも、薫子が父親に自分の本命は悠誠であることを伝えるためのようだ。 「お二人はお付き合いされているとか?」 「あー、それは全くのデタラメね。単純に同級生ってだけよ」  ふと賑わっているパーティー内で、聞き覚えのある声がした。澪依にそっくりな声だった。辺りを見渡し、すぐ近くのドリンク置き場付近で男女が話している姿が目に入った。  突然立ち止まった悠誠を不審に思った薫子が、こちらを振り返る。 「悠誠様、どうかされました?」 「あ……、いえ」  だが、目敏い薫子は悠誠が見ている方へ視線をやり、驚いたような声をあげた。 「まあ、玉木さん。いらしていたんですね!」  薫子の声に振り返った女性は、やはり澪依だった。ひどく驚いた表情で悠誠の方を見る。いや、正確には悠誠の腕に添えられている薫子の手を見ただろう。  けれど、悠誠も驚く。彼女がどうしてここにいるのかも不思議な上に、隣にしれっと立っている見知った顔の男を見て、思わず顔をしかめそうになる。嫉妬心がメラメラと沸き起こってくる。  二人の距離を離すためにさりげなく、竜也と澪依の間に立ち、悠誠は飲み物を手にしたのだった。
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