第五章 どんな貴方でもいい

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第五章 どんな貴方でもいい

 パーティー会場から帰ってきて、澪依はそのままシャワーを浴び、部屋着に着替えた。 「疲れた……」 「お疲れ様です」  ソファに倒れ込むように座ると、すかさず悠誠が熱々の白湯入りマグカップをローテーブルの上に置いてくれた。まだ、あのタキシード姿のままだ。 「ねぇ、ハル。それ、薫子さんから?」 「はい。オーダーメイドらしいです」 「ふーん。オーダーメイド、ね」 「ヤキモチ、ですか?」 「違っ……わない。その服、どうするの?」 「澪依さんは、どうして欲しいですか?」  澪依は白湯を手に取り、ふぅと息を吹きかけながら飲もうとしたら、悠誠に取り上げられてしまう。彼を見上げれば、意地悪な目をしていた。 「どうって……、脱いでほしい?」 「何故、そこで疑問形になるんですか」  悠誠は吹き出し、声を立てて笑う。手に持っている白湯が溢れないか、ハラハラした。 「だ、だって、他に何て言えば」 「安心してください。明日にでも、郵送で返却する予定ですよ」  その言葉を聞き、どこかほっとする自分がいた。心のモヤモヤも、もうなくなっている。気持ちを素直に言葉にするのは、大事なことだと今回で学習した。 「ハル。もう、嘘をつかないでほしい。思っていたより今回、ダメージが凄くて。自分でもびっくりするぐらい、心に来た。……実は佐伯さんから、ハルも薫子さん経由で来ること、聞いてたの」 「え、そうだったんですか?」 「うん。だから、余計に何で本当のこと言ってくれないんだろうって、モヤモヤして。素直に自分もパーティーに誘われてることを伝えればよかったんだけど、何か嘘をつかれてることにイラッとして、拗ねてた」 「拗ねてたんですか?」 「うん」 「あー、もう。やっぱり、澪依さんは可愛すぎて、たまらないです」  ぎゅっと突然抱きしめられ、澪依は硬直する。 「な、なんで、そうなるの!?」 「可愛い澪依さんが、悪いんです」 「ええ……」  悠誠の可愛いと思うポイントが分からなすぎて、困惑する。けれど、ここ最近スキンシップがなかったので、抱きしめられることがちょっと嬉しくもある。 「ねぇ、ハル」 「はい」 「大好き」 「僕もです」 「……何か、恥ずかしいね」 「そうですか? 僕はやっと、自分の気持ちを素直に言葉にしてくれるようになって、すごく嬉しいですよ」  さらに強く抱きしめられ、澪依も彼の背中に手を回して、それに応える。やはり、悠誠の匂いは落ち着く。心臓の規則正しい音がトクントクンと聞こえるのも好きだ。 「今日は二回も澪依さんに好きと言ってもらえて、幸せです」 「わたし、そんなに気持ち伝えてなかった?」 「はい。いつも僕が言って、『わたしも』って言うぐらいでしたよ」 「なんか、ごめん」  恥ずかしさが勝って、今まであまり気持ちを伝えられていなかったことを痛感する。だが、薫子や他の人の前で「好き」と言葉にして伝えたからなのか、もっと気持ちを伝えたいと思うようになった。一歩成長したということだろうか。 「今日はちょっともう、我慢の限界です」 「え、ちょっ、ちょっとハル!?」  悠誠の手がするりと服の隙間から入ってきて、優しく全体を撫でる。どうやら、スイッチが入ってしまったようだ。 「そ、その前にそのタキシード、着替えて――!」  澪依の叫びは、悠誠の唇によって塞がれることとなった――――。
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