第五章 どんな貴方でもいい

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「そういえば、澪依さん」 「ん?」 「今度、僕の家族にも会ってもらえませんか」 「ん!?」  思わず、予想していなかった言葉に、フレンチトーストが喉に詰まりそうになる。慌てて、胸を叩きながら水を流し込む。 「大丈夫ですか?」 「けほっ、けほっ。……今なんて?」 「僕の家族にも会って欲しいと思って」 「き、急だね」 「前に澪依さんのご両親に会って、家族のことを知れるのはいいなと思ったので。澪依さんにも僕の家族を知ってもらいたいです」 「そっか、なるほどね」  悠誠から家族の話をしてくれるのは珍しく、澪依は嬉しくなった。普段、彼はあまり家族のことを口にしないし、同棲するにあたっても親に挨拶に行くなどという話も出なかった。だから、付き合う前から家族の話題は触れて欲しくないのかと思っていて、澪依も極力触れないように避けていたのだ。 「僕の家族は、少し特殊で」 「そうなんだ」 「実は、僕の父と母は子連れの再婚で、姉とは血が繋がっていないです」  澪依の会社に来る前は、悠誠は広告代理店の営業をしていた。彼が澪依の所に飛び込みで営業にきたのが、出会ったきっかけだった。当時の彼は、心が擦り減った状態でかなり棘々しい態度を取っていた。けれど、澪依は彼の交渉力や効率の良いスケジュール管理力に驚かされたのだ。思わず、「秘書にならないか」と言ってしまって、悠誠を中途で採用する運びとなった。所謂、ヘッドハンティングみたいなものだ。  その時、澪依は提出された書類で彼の家族構成は把握していたが、再婚ということは知らなかった。 「家族の仲自体は悪くなく、普通です。ただ……」 「ただ?」 「姉とは、少し距離を取っています」 「……それは何があったか、聞いても平気?」 「はい。親が再婚したのは、僕が中三、姉が高二の時でした。姉は僕のことを気に入ってくれて、家の中で気まずくならないように、明るい空気を作ってくれていました」 「へぇ、いいお姉さんね」 「ですが、僕が高校生になってから、姉がおかしくなったんです」  悠誠は一呼吸置くように、コーヒーを口に含んだ。澪依はじっと彼が話し出すのを待つ。 「高校に入ってから、僕は身長も体格も変わっていって、服装や髪型も気にするようになる時期でした。その時から、姉の僕を見る目が完全に異性に恋をする目に変わっていきました」 「……」  心なしか、重い空気が澪依たちの周りに漂っている。澪依は何とも言えない気持ちだ。ここからの話は、想像がつく。悠誠が家族と距離を取るようになったきっかけがあったのだろう。
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