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「……いえ。他には、何もされませんでしたか?」
「う、うん。いつものグループ会社にならないかっていう話をされただけ」
「よかった。これからは、僕も同席させてください。また、アイツが何をしてくるか分かりませんし」
悠誠が澪依の髪に顔を埋めて、さらに強く抱きしめた。
そのあまりの強さに、すごく心配させてしまったのだと痛感する。
「ごめん。今度からそうする」
「できれば、相手が男のときは二人きりにならないでください」
「えっ、そ、それは」
「好きな人が他の男と話しているのは嫌なものですよ」
「でも、仕事だし……」
「分かっています。でも、澪依さんは美しいですし、可愛らしい部分もあるから。襲われやしないかと、心配で気が狂いそうになるので。現にさっきも」
「わ、分かった!」
整った顔で迫られながら、くどくどと続ける彼の言葉を慌てて遮る。
そんなに心配をかけているとは思わなかった。けれど、単なる心配というより――――。
「もしかして、ヤキモチ焼いてる?」
「ええ、そうです。いつも澪依さんに話しかけてくる男、全員に嫉妬しています」
悠誠の態度が素っ気なくなる時があったのを澪依は思い出し、納得する。
あれは、嫉妬していたのだ。
「まぁ、その後に澪依さんのこと、たっぷり可愛がらせてもらいますけどね」
彼を見上げれば、いつも家で見るSっ気のある表情をしていた。
「えっ! い、いつも凄いイジワルしてくる時って、そういうことだったの!?」
「はい」
悠誠は涼し気に澪依を見つめる。
今までのあれやこれやを思い出し、澪依の頬がみるみる熱を帯びていく。恥ずかしいこと、この上ない。
「仕事上、男性と話さないのは難しいけど、二人きりにはならないように気をつける……」
「物分かりがいいところも、僕は好きですよ」
にこりと笑い、澪依の首元に彼の顔が近づく。
「ちょっ、ハル……!?」
「何ですか?」
首元に長めのキスをする彼から逃れようと身をよじった時に、視界に壁時計が目に入った。時計の針が、11時を回っている。
「ハ、ハルっ! 時間!!」
「ああ、大丈夫ですよ」
「いやいや、会食に遅れるじゃない!」
「大丈夫ですから。それよりも、その目と顔をまずは何とかしましょう。このままで、お相手に見せるわけにもいきませんし」
悠誠の言葉に我に返り、咄嗟に手で顔を隠す。今更もう遅いが、今の自分が酷い有り様であることをすっかり忘れていた。悠誠の言うように、恐らく目はかなり赤く腫れているだろう。
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