第一章 彼女に近づかないで

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「……いえ。他には、何もされませんでしたか?」 「う、うん。いつものグループ会社にならないかっていう話をされただけ」 「よかった。これからは、僕も同席させてください。また、アイツが何をしてくるか分かりませんし」  悠誠が澪依の髪に顔を埋めて、さらに強く抱きしめた。  そのあまりの強さに、すごく心配させてしまったのだと痛感する。 「ごめん。今度からそうする」 「できれば、相手が男のときは二人きりにならないでください」 「えっ、そ、それは」 「好きな人が他の(ヤツ)と話しているのは嫌なものですよ」 「でも、仕事だし……」 「分かっています。でも、澪依さんは美しいですし、可愛らしい部分もあるから。襲われやしないかと、心配で気が狂いそうになるので。現にさっきも」 「わ、分かった!」  整った顔で迫られながら、くどくどと続ける彼の言葉を慌てて遮る。  そんなに心配をかけているとは思わなかった。けれど、単なる心配というより――――。 「もしかして、ヤキモチ焼いてる?」 「ええ、そうです。いつも澪依さんに話しかけてくる男、全員に嫉妬しています」  悠誠の態度が素っ気なくなる時があったのを澪依は思い出し、納得する。  あれは、嫉妬していたのだ。 「まぁ、その後に澪依さんのこと、たっぷり可愛がらせてもらいますけどね」  彼を見上げれば、いつも家で見るSっ気のある表情(かお)をしていた。 「えっ! い、いつも凄いイジワルしてくる時って、そういうことだったの!?」 「はい」  悠誠は涼し気に澪依を見つめる。  今までのあれやこれやを思い出し、澪依の頬がみるみる熱を帯びていく。恥ずかしいこと、この上ない。 「仕事上、男性と話さないのは難しいけど、二人きりにはならないように気をつける……」 「物分かりがいいところも、僕は好きですよ」  にこりと笑い、澪依の首元に彼の顔が近づく。 「ちょっ、ハル……!?」 「何ですか?」  首元に長めのキスをする彼から逃れようと身をよじった時に、視界に壁時計が目に入った。時計の針が、11時を回っている。 「ハ、ハルっ! 時間!!」 「ああ、大丈夫ですよ」 「いやいや、会食に遅れるじゃない!」 「大丈夫ですから。それよりも、その目と顔をまずは何とかしましょう。このままで、お相手に見せるわけにもいきませんし」  悠誠の言葉に我に返り、咄嗟に手で顔を隠す。今更もう遅いが、今の自分が酷い有り様であることをすっかり忘れていた。悠誠の言うように、恐らく目はかなり赤く腫れているだろう。  
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