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〜悠誠のプチ裏話その一〜
悠誠が愛して止まない女性、玉木澪依は時々恐ろしく無防備になる。
彼氏である身としては、もう少し警戒心を抱いてほしいと常々思う。
――――というのも、応接室に彼女とあの思い上がり野郎が二人きりでいるのだ。
何も起こらない訳がない。
なぜなら、思い上がり野郎こと神村竜也は、澪依のことが好きなのである。
高校時代の同級生というだけで羨ましいのに、仕事に託けて頻繁に会いに来るようになり、腹が立つ。
竜也は、澪依に好意を寄せている素振りを見せて、頑張ってアピールしているようだが、当の彼女本人はその好意に全く気付いていない。
いい気味である。
悠誠が澪依と付き合うまでに、かなりの時間を要したのだから、そんな簡単に彼女を落とせると思ったら大間違いだ。
澪依は仕事一筋で、魅力的な容姿をしているにも関わらず、本人にその自覚が全くない。だから、恋愛にはかなり疎いところがある。彼女に好意を寄せている男は、結構いるのに、そのことに気付いていないのだ。
疎い澪依も可愛いのだが、悠誠の心配は尽きない。
「稲垣さん、眉間の皺がすごいことになっていますよ」
「すみません。ちょっと考え事を」
何かあった時のために、いつも通り応接室の外で待機をしていたら、通りすがりの同僚に声をかけられた。
「玉木社長、来客対応ですか?」
「はい。OMU社の神村様がいらっしゃっています」
「ああ! だから、そんな怖い顔をしているのですね」
「はい?」
「いやぁ、社内で有名ですよ。OMU社が来たときは触らぬ稲垣に祟りなしって」
「……」
妙な話が吹聴されていたとは、全く知らなかった。竜也が来た時の悠誠は、そんなに酷い表情をしているのだろうか。
悠誠が黙り込んでいるのを、怒ったと勘違いした同僚が慌てる。
「あ、いやっ! そういうことを言っている奴もいるよってことですからっ!!」
「ご忠告、どうもありがとうございます。ちなみに、社員の皆さんに十二時まで応接室付近を通らないように、伝えておいてもらえますか?」
「え、何でですか?」
「今日、社長命令でここ周辺の床だけ先にワックス清掃が入るので」
「なるほど、分かりました。社内メールで回しておきます」
「助かります」
実際にワックス清掃が入るのは今週末だが、社長命令とあれば誰も不思議に思うことはないだろう。家では掃除が苦手な澪依が、職場では綺麗好きで塵一つ見逃さないキャラで通っているのである。
悠誠は、廊下の端にある用具室から「清掃中」と書かれた黄色い看板を持ってきて、エレベーター付近に立てた。
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