第二章 僕が彼氏です

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第二章 僕が彼氏です

「はぁ、今日も一日乗り切ったー」 「お疲れ様です、澪依さん」  帰ってきて早々、澪依はソファに倒れ込んだ。  あの後、無事に会食にも間に合い、試食会議も書類整理も難なく終わらすことができた。特に書類に関しては、量が多すぎて途中から目がチカチカし始め、音を上げそうになったが、悠誠からのスイーツの差し入れを食べながら終わらせた。 「ハル、さっぱりしたものが食べたい」 「了解です。今日の会食も試食も、ガッツリ食べていましたからね」 「美味しかったから、つい」 「冷奴と玉ねぎのお味噌汁にしますか?」 「うん。それがいい」  家に帰ってきたら、澪依はナマケモノのように身体を動かすのがゆっくりとなる。  今日は特に泣いたのもあって、体力の消耗が激しい。もうソファから一歩も動けそうにない。澪依は手足をだらんと投げ出し、天井を見つめる。  改めて、今日のことを思い出しているうちに、ふと気になることがあった。  竜也が帰る前、悠誠に何か言われていた。その後、急に激怒して出て行ったのだ。澪依はパニックになってて、現状を理解していなかったが、今頃になって何を言ったのか、気になり始めた。 「澪依さん?」  不意に、ワイシャツにエプロン姿の悠誠が澪依の視界を覆った。 「どうかしましたか?」 「……ううん。ちょっとぼんやりしてただけ」  急に黙り込んだ澪依を心配したのか、料理の手を止めて様子を見に来たようだ。  家での彼は、表情が少しだけ豊かになる。彼の普段見れない表情を見ることができるのは、彼女である澪依の特権だ。 「今日はもうご飯食べて、お風呂でゆっくりして早めに寝ましょう」 「うん」 「お味噌汁、もうすぐできますので」 「ありがとう」  悠誠が台所に戻ろうとした時に、澪依のスマホが鳴った。画面を確認すれば、弟の悠依(ゆい)からだ。  悠依は澪依の三つ下で、悠誠と同い年である。しかも、同じジムに通っているらしい。  澪依はスピーカー機能にし、電話に出る。 「もしもし?」 『あ、姉さん? 今、電話しても平気?』 「うん、大丈夫。急にどうしたの?」 『母さんが、じいちゃんの三回忌は帰って来れるのかって』 「ああ、もうそんな時期かぁ。ちょっと予定調整するから、いつなのか日程送って」 『分かった。一応帰るってことで、人数カウントしていい?』 「うん」 『了解。あ、あと悠誠くん、いる?』 「いるけど」  突然、悠誠の名が出て、テーブルに食材を並べていた彼の手が止まる。  澪依は彼を手招きして、スマホを近くのテーブルに置いた。
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