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第六話
それから、友人たちに恋愛にまつわる体験談を聞きだし、それを元にプロットを作って担当者に見せたところ、すんなりと企画が通り書籍化となった。
自身初の恋愛小説が書店で発売されて、担当者の予想通り……、いやそれ以上に反響があり、かなり驚いてしまった。
同世代の女性から、「この気持ち分かる!」「この切ないけど、ほっこりする感じがいい!!」と多くの感想が届いた。読者層と歳が近いのもあり、親近感を覚えやすかったのかもしれない。そのお陰か、あれよあれよという間に十万部以上も売れて二作目、三作目……と出しても売上は右肩上がり。
そんなある日、僕の手元に気になる一通の手紙が届いた。送り主は不明。作家歴十一年目で送り主不明のファンレターは、人生初だ。
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「拝啓 神大寺怜央先生
初めまして。先生の作品を読み、この高鳴る気持ちをどうしてもお伝えしたく、手紙を書かせてもらいました。
実はデビュー当時から、先生の大ファンです! きっかけは先生の名前でした。「怜央」という名前が私の初恋の人と同じ名前で、気がついたら先生の作品を手にレジに並んでいました。それからずっと、先生の作品は全部読んでいます。
情景が思い描きやすい先生の表現が大好きです! 今回の新作『春、君想ふ』も最高のラブストーリーでした!! 主人公の二十年分の想いが溢れんばかりに伝わってきて、泣かずにはいられませんでした。
私も主人公と同じように二十年ほど忘れられない人がいます。先ほども書いた、初恋の人です。ずっと彼のことが好きで、ちょっとしたすれ違いをきっかけに連絡を取らなくなり、今ではどこで何をしているのか分かりません。
彼は、先生と同じように作家を目指している人でした。私は彼の描く物語を読むのが大好きで、いつか本になったら自分の手で多くの人に彼の物語を届けたいと密かに思っていました。恥ずかしくて、このことは本人にも言えず、そのまま時が経ってしまいました。
今思えば、離れ離れになる前に自分の気持ちを伝えられていたら、と何度も後悔しています。でも、先生の作品を読んで、いつかまた出会えたら、その時はちゃんと自分に素直になろうと思えました。ありがとうございます!
実は今、私は本屋で働いています。いつでも彼の書籍化した本を多くの人に届けられるように。
最近は、毎回神大寺先生の作品が発売される度に、ポップを作らせていただいています。それを見て、本を手に取ってくださるお客様が増えていて、私まで嬉しい気持ちで一杯です。
今後も陰ながら先生の更なるご活躍を応援しています! 新作も楽しみです。 立林 瑛」
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