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壁の時計は、十一時ちょうどをさしている。
そろそろ帰るべきか。
早く帰って、ゆっくり眠らないと、明日の仕事に差し支えるかもしれない。
もう由香のアパートにきて、二時間半が経過していた。
由香というのは、二年前に付き合い始めた俺の恋人だ。
あまり背は高くないが、アイドルのようなあどけない顔と、くりっとした瞳が俺の好み。
もう少しいっしょにいてあげたいけれど、仕事でしっかり成果を出すためには休養も大事だ。
俺はテーブルに手をついて立ち上がった。
「さて、そろそろ帰ることにするよ」
テレビのバラエティ番組を観ていた由香が残念そうに聞いた。
「えー、もう帰っちゃうの?」
「ああ。明日も朝早いからな」
「もう少しいっしょにいようよ。せっかく私のうちに遊びに来てくれたんだから、もっとゆっくりしてってよ」
そういわれると反論しにくい。
「そうだなあ、じゃあ、もう少しだけ付き合うよ」
「わあ、嬉しい。そうだ、ビールでも飲もうよ」
「どうしようかな……?」
「ね、お願い。一杯だけ付き合って。お願い」
可愛らしい瞳で懇願されると、断れないのが俺なのだ。
「仕方ない。本当に一杯だけだぞ」
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