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墓の前に戻るとタクシーは消えていた。
「逝っちまったか」
たぶん父はそのまま運転して天国まで行ったのだろう。
しみじみと感傷に浸っている俺だったが、肝心なことを忘れていた。
「……俺どうやって帰るの?」
ポツン、と墓地に残される俺は一人呟く。
そして叫んだ。
「俺は徒歩で帰るのかよ!」
感動の再会と別れの代償は遠距離の徒歩帰宅だった。
もういろいろ台無しなんだが。
「ま、いいか」
真っ暗だった夜の道はいつの間にか明け方の淡い光に照らされていた。
朝陽の眩しさが、ほんの少しの温かさが背中を押してくれる。
俺は軽くなった身体と心で家まで走り出した。
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