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「おい! 鎌切、大丈夫か?」
誰かに身体を揺すられて、目を覚ました。いつの間にか電柱にもたれて眠っていたようで、中条と榎本が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あれ、俺……」
「お前がいきなり飛び出して行くから、慌てて追いかけたんだけど、なかなか見つからなくてさ。んで、探してたらこんな所で寝てるから心配したよ」
「何だよ、飲み過ぎたか?」
「いや、悪い……。っていうか、村上は?」
「村上って、あの村上優依奈のこと?」
「ああ。会わなかったか?」
そう言うと、中条と榎本の表情が固まった。
「まだ寝ぼけてんのか?」
中条が真顔で尋ねる。
「俺、村上を追いかけて店を出て、さっきまでそこで話してたんだけど」
「さっきから何言ってんの? いる訳ねえだろ、村上が」
「でも俺……」
「黙れ! ……お前、何も知らねえみたいだから教えてやるよ」
榎本が低い声で言った。
「アイツ、死んだんだよ」
「えっ……?」
「高校の入学式の日、村上は自殺した」
「嘘、だろ……?」
そんな話、信じられなかった。だってさっきまで、会話してたんだから。抱きしめられた感触だって覚えてる。
「嘘じゃないよ、鎌切」
中条がボソッと呟いた。
「村上が自殺したことは、クラスのみんなが知ってる。葬式だって、来なかったのはお前を含めた数人だけだったよ」
「そんな、どうして……」
「自分の胸に手を当ててよく考えろ。人殺し」
そう言って榎本に睨まれた。
俺だけが村上の死を知らなかった。俺だけが葬式にも呼ばれなかった。どうして、なぜなんだ……?
そんなこと、考えるまでもなかった。答えは明白だ。俺が加害者だからだ。俺のせいで、村上は死んだ。村上を殺したのは俺だ。遅かったんだ、何もかも。
俺は走り出した。行き先はわからない。走って走って、とにかく走り続けて、法律で裁かれない罪を犯した男は、そのまま夜の闇へと消えていった。
End
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