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同窓会は中学校の近くにある居酒屋で行われる。俺がそこに着いたのは開始時刻ギリギリで、既にほとんどのメンバーが揃っているようだった。店員に同窓会の集まりであることを告げると、奥の大部屋へ案内された。
一呼吸おいて襖を開けると、賑やかだった部屋が一瞬で静まり返った。四方八方から冷たい視線が向けられる。「アイツ、よく来れたよね」一部の女子の方からは、そんな声も聞こえてきた。
「……おう、鎌切久しぶり。とりあえずそこ座れよ」
幹事の榎本に促され、入口に一番近い端の席に座った。それをきっかけに、あちこちで会話が始まり、部屋は再び賑やかさを取り戻した。
「遅かったな、鎌切。同窓会も来ないのかと思ったよ」
隣の席の中条とは、同じ大学附属の高校に進学し、学部は違うが2人共そのまま大学に進んだため、今でもよく会っている。
「正直、悩んだよ」
「……村上のことか?」
「まあな」
中学の頃から仲の良かった中条は、俺が村上のことを好きだと知っている。あの時も、「俺、村上に嫌われたかも」と言ったら、詳しいことは何も聞かずにただ「お気の毒に」と言って笑われた。
同窓会は、各自席を移動する形式で、近況報告や思い出話などで盛り上がっていた。そんな様子を眺めながら、俺は席を立つこともなく、中条や榎本たちと時々話しながら、目の前の料理や酒をゆっくりと口に運んでいく。
ふと、村上の方に目をやった。部屋に入った瞬間、真っ先に探した彼女の姿は、中学の頃とあまり変わらず、清楚な身なりで、何か目を惹くものがあった。彼女もずっと俺と対角線上の隅の席から動かない。それでも、静かに微笑みながら、集まってきた同級生たちと楽しそうに話している。もちろん、俺と目が合うことは一度もなかった。
「じゃあそろそろ時間だから、一回締めまーす。残りたい人は、追加料金集めるのでこの後俺の所に来てくださーい」
開始から3時間が経ち、榎本が号令をかけた。
「お前、どうする? 残る?」
中条が聞いてきた。俺はまだ村上と話せていなかったから、彼女が残るなら残ろうと思っていた。
「中条は?」
「お前が残るなら残るし、帰るなら帰る」
「何だよそれ。俺は……」
帰宅する人たちがぞろぞろと部屋を出て行く。俺が村上のいた席を見ると、そこにはもう彼女の姿はなかった。お金を集める榎本と目が合ったが、そこにもいなかった。
いつの間に……? でも、今追いかければまだ間に合うかもしれない。今日言わなかったら、俺はきっと、一生後悔する。その為に来たんだ、俺は。ただの自己満足かもしれないけど、どうしても伝えたかった。
俺は店を飛び出した。村上の家の方向はわからなかったが、とにかく走った。
遠くに、白いコートを着た長い髪の女性が歩いているのが見えた。確信はないけど、あの雰囲気はたぶん村上だ。俺は叫んだ。
「待って! 村上、待ってくれ!」
女性は振り返り、立ち止まった。その人は、やっぱり村上優依奈だった。
「……どなたですか?」
村上は小さく尋ねた。5年経ったとはいえ、俺もそんなに見た目は変わっていないはずだ。だから、恐らく村上は俺のことを記憶から消したということだろう。あんなことをしたんだから、当然だ。
「俺、鎌切……鎌切正秋です。あなたとは、村上さんとは中学の時同じクラスで……」
「知ってます」
呼吸を整えながら言うと、村上は静かに微笑んでそう呟いた。
「え? えっと……」
「何の用ですか?」
村上はずっと微笑んでいる。意を決して、俺は口を開いた。
「俺、村上にずっと謝りたかったんだ。中学の時のこと。……俺、村上のことが好きだった。だけど、あの頃の俺はガキでバカだったから、お前の気を引きたくて、いつもひどいこと言ったりやったりしてた。本当ごめん。……それから、あの日のことも。覚えてるだろ? 俺がお前に『死ねよ、ブス』って言ったの。悪いのは、100%忘れ物した俺なのに。あんなこと、本当は思ってもいないし、言うつもりもなかったんだ。なのに、つまらないプライドが邪魔をして、なかなか謝れなくて。……5年間、ずっと後悔してた。ごめん。本当にごめんなさい」
表情一つ変えず、静かに俺の言葉を聞いていた彼女の目から、一筋の涙がこぼれた。
「……遅いよ」
「ごめん」
「私、ずっと待ってた。いつかあなたが謝ってくれることも、想いを伝えてくれることも。……あなたにはたくさん傷つけられたけど、それでも少しはあなたのことが好きだった。だけどあの日、あなたは私の心を殺した。だから私も、頭の中であなたを殺したの。これでおあいこ。……だからもう、私のことも忘れてください」
「本当に、ごめ……」
言いかけたところで、突然村上が俺を抱きしめた。彼女のヒンヤリとした体温が伝わってくる。
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