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アトがいぶかりながらも遠巻きに眺めていると、ふと集団の一人と目が合った。目元は隈で黒くなり、いかにも不養生をしていそうな顔色の女性である。彼女はアトに気付くなり、指差して叫んだ。
「あっ、あああ、ひっ光アトよ!!」
その黄色い声を耳にした途端、町を行き交う人々が一斉に見向いてアトを目に留めた。アトは魔法の存在を世に広めた有名人であるから、みすみす放っておくわけもなく、誰も彼もがアトに群がった。そうやって人波に飲まれることにアトは慣れていたので、特段うろたえもせず、むしろ手を振って応えてやった。そんな賑やかな人込みを、広場の隅で街頭宣伝をしていた風の教の面々は遠巻きに眺めているばかりであった。
最初にアトに気付いた女性は、ふらりと風の教の集団から離れたかと思いきや、人波を掻き分けながらアトに向かって駆け足で寄ってきた。
「…ちょ。ちょ、ちょ…」
その女性は、ひどく赤面しており、見るからに人見知りをしている。そうしてしどろもどろしている様が、なんとなく幼気で可愛く思えた。女性は、一旦両手を広げて深呼吸した。すると、緊張がほぐれたのか、薄気味悪くにたりと笑った。
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