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いちゃもんを付けられたアトは、たちまち憤慨した。自らが演者であることも忘れて、観客の前でその少女と言い争い始めた。
「誰だ、勝手に舞台に上がって来るのは!」
「わたくしには分かっていますのよ!あなた方の魔法とやらがインチキであることを!」
「いきなり出てきてインチキ呼ばわりするなんて、お前、良い度胸してんじゃねぇか!」
そうやって今にも殴りかからんとするほどに激昂するアトを押さえ止めたのは、アトの助手を務める、早乙女マコトという年端のいかない八歳の男の子であった。彼は、言い争う二人の間に割り入ると、少女に突っかかって行こうとするアトの前に立ち塞がって説き伏せようと試みた。
「ちょっとやめてよ、師匠!」
「どいてろ、マコト!」そこでアトは、舞台袖に向かって大振りに手招きした。「皆、来い!あの女をつまみ出してやれ!」
すると、舞台裏に控えていた一座の面々が躍り出てきて、少女を舞台上から引きずり下ろそうと群がった。彼らは皆、真っ黒い道化師の出で立ちで揃えられており、そのすらりとした長身が立ち並ぶ様は、さながら木立のようであった。
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