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アトは、思わず首を傾げた。このまま馬鹿にされたまま引き下がってなるものかと、アトは鴉を手櫛に戻すと、マコトに「例の箱、持ってきて」と頼んだ。マコトは、大人一人がゆうに入れるほどに大きな黒箱を舞台袖から押してきた。アトは、その箱の中に手櫛を放り込み、閉じた蓋を拳でこんこんと二回叩いた。こうすれば手櫛の持ち主、すなわち加賀亞の弟が飛び出してくる。ところが、いざ箱を開けてみると、中から出てきたのは、なんと加賀亞リンであった。アトは、またもや面食らった。
「あ、あれ?」
加賀亞は、箱の傍らに立っていたはずであるのに、いつの間にか箱に入れられていたから驚愕こそした。それも束の間、冷ややかな視線をアトに向け、ため息をついて幻滅した。
「光アト…。どうやらわたくしの見込み違いだったようね…」
こうまで魔法を用いているにもかかわらず、ことごとく失敗に終わってしまった。アトは、とうとう加賀亞をいぶかり始めた。
「加賀亞。本当に弟なんているのかよ?」
「もちろん。なんなら…」
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