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突拍子もない提案に目をむく俺にも怯むことなく返事を待っている。こんな頭のおかしいガキは見たことない。
「僕は花崎仁。おじさんは?」
固まった俺を無視してガキはマイペースに自己紹介をしてくる。
「おじさん名前もないの? じゃあ僕が付けてあげる。そうだなぁ……プリン。プリンはどう?」
「それ頭だけ見て決めただろ! 芝野、俺の名前は芝野一だ」
「……ポチ?」
「誰が犬だ! しばの! いーち! 数字の一だ!」
今まで散々からかわれてきたネタに、条件反射で怒鳴っていた。俺が凄んでいるのにガキは動じることなく、むしろ面白そうに口を緩ませた。
「いいじゃん、ポチで。帰る家ないんでしょう? 犬だったら、拾って帰ってあげるよ?」
「ぐっ……」
ガキに言い負かされるのは屈辱だ。しかし、自宅には戻れない俺は重い口を開く。
「……こんな得体のしれない男を連れ帰ったら、親がキレるだろ」
「大丈夫だよ。うちの親、この三日はいないから」
「……二日間だけ拾われてやるよ」
なんでもないことのように言うガキに、かける言葉は見つけられない。まともな大人ではない俺は、憎まれ口でそう答えていた。おそらくあと二日で死ぬんだからそれまでの寝床にちょうどいい。
「じゃあポチ、帰ろう。僕達の家はこっちだよ!」
はしゃいだ様子で俺の手を取る。手袋をしていないその指先は、ガキのくせに冷たかった。
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