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母がちゃぶ台に座っている。その後ろから窺うように声をかけた。
『かあさん、お腹すいた』
『あ、そう。なら友達の家ででももらってきなさい。あたしこれから出かけるから』
『待ってよ! かあさん!』
キレイに化粧をした母は不機嫌そうに立ち上がり、こちらを一瞥した。しかしすぐに興味を失い、背を向け行ってしまう。俺は母を追いかたが、母はどんどん遠ざかって行った。
その時突然、腹に衝撃が走り俺は「ぐえっ」と情けない潰れた声と共に目覚めた。
「ポチ、お腹すいた」
俺の様子などお構いなしに腹の上の物体は口を開く。寝ぼけていてすぐに状況を理解できなかったが、そういえば仁に拾われたんだと思い出した。
腹の上からどかし、痛みの意趣返しとして「飯の準備はご主人様がするもんだろ」と言うと一瞬戸惑った顔をしたが、生意気にこう言った。
「しょうがないな。拾ってきたのは僕だからね。ちゃんとお世話をしてあげるよ」
そして出きたのは黒焦げのトースト。仁が口をへの字に曲げ捨てようとするのを止める。スプーンを探して取り出し、焦げを取る。
「そんなの無理して食べなくても、新しいの焼くのに」
失敗がいたたまれないのか俯く、そのつむじをいちべつする。
「食べられないわけじゃない。そんなもったいないことするな……それに、せっかくご主人様が初めて用意してくれたんだ。ちゃんと食う」
こちらを見上げてくる視線に、気付かないふりをして焦げを落とした。仁用のトーストは俺が焼いてやった。それにジャムを塗り何が嬉しいのか口元を緩ませてパクつく仁を眺めながら、苦味と妙な甘ったるさのあるトーストを胃に収めた。
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