Second Chance

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 リビングで昨日よりも薄くなった十字をかざしてぼんやりしていると、隣でテレビを見ていた仁言った。 「ケーキ作りたい」 「あ?」  見ると、クリスマス特集で家で作れるケーキというのをやっていた。財布を手に仁が俺の手を引く。 「わざわざ作らなくても買えばいいだろ。面倒くさい」 「いいからやるの! ほら、飼い主命令! ついでに散歩もしてあげるから!」  行くと言うまで騒ぎ立てた仁に折れスーパーまで買い出しに付き合うことになってしまった。  スーパーではスポンジと絞るだけのクリームにイチゴ、仁が絶対に入れたいと譲らなかった体に悪そうなカラフルなチョコを買う。その際、店員には不審な目で見られた。察した仁が「早く買って帰らないと、ママにこれだからニートはってまた怒られるよ」と腕を引っ張ると警戒は解けたが、すねかじりの叔父にでも見られたようで不服だ。  家に帰ると早速作り出したが、そこは料理が出来ない男二人。クリームは飛び散り机は汚れ、スポンジに塗るのもベタベタで荒らされまくった雪原みたいだった。それでも何が楽しいのか仁はずっと笑っていた。出来上がった不格好なケーキを今までで一番おいしいと食べている。そして「二日なんて言わないでずっといてよ」と冗談めかして言ってきたがあいまいに誤魔化した。  俺に向けられる屈託のない笑顔を見て、俺は自分の未練がなんだったのかおぼろげだが分かった気がした。
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